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競合他社のECサイトを見ていますか?

公開日:2024/03/15

尾亦周平(おまた・しゅうへい)

ネット通販(EC)の市場は日々拡大している一方、市場競争も激しいです。筆者も中小企業の支援者として、色々な企業様のECサイトを拝見する機会がありますが、その際に「ライバル(競合他社)・市場の情報を見ることが大事」とお伝えしています。この記事では、EC市場で事業を行う上で考えるべき「3C分析」について、具体的な事例を交えながらご紹介します。

3C分析とは

マーケティングのフレームワークで「3C分析」があります。3Cとは、
C:Customer(顧客、市場)
C:Competitor(競合他社)
C:Company(自社)
の3つの英単語の頭文字をとった言葉です。自社だけでなく、市場・競合を俯瞰して理解した上で、自社のポジショニングや方向性を明確にする視点です。

市場・競合に対する、自社の立ち位置が大事
図:3Cのイメージ
  1. Customer(顧客の分析)
    自社の商品・サービスによって、喜んでくれる顧客がいるのか?また、ターゲットとなる顧客層が求めているニーズは何かを分析します。
  2. Competitor(競合の分析)
    競合の価格、商品ラインナップ、売り方などを分析します。
  3. Company(自社の分析)
    上記を踏まえて、自社の強みや、選ばれる理由を明確化します。競合との違いを明確にし、顧客から見た際の、自社の立ち位置(ポジショニング)を明確化します。

素晴らしい商品を開発したから、絶対売れるはず!と意気込んで発売してみたものの、なかなか売れないんだよ、というのはよく聞く話です。これは1C、つまり自社(Company)だけの視点で考えていることで、訴求しようとした点が顧客のニーズと合致しなかった、若しくは、競合他社に機能性・価格などで負けていた、ということが原因かもしれません。

具体的な3Cの事例

筆者自身の事例をご紹介します。個人事業主として、アマゾンで「そろばん」を販売していたことがありました。私が幼少期にそろばんを習っていたことや(途中で挫折しましたが(涙))、AIが進化する中で、子供達に自頭力をつけるためにそろばんを触ってほしかったことなどの理由で、そろばんを販売してみよう!と思いたって始めました。

上述の「3C分析」をしながら、下記の通り商品開発から販売まで進めていきました。

1. Customer(顧客の分析)

アマゾンでは各カテゴリーの「ベストセラー」が表示されるため、競合となるライバル商品がどの商品かを事前に把握することができます。数億点の商品が販売されるアマゾンでは、顧客が買いやすい売り場にするために、大きなカテゴリーから、小さなカテゴリーに細分化されていきます。具体的には「文房具・オフィス用品」という大カテゴリーの中に「学習用品」という中カテゴリーがあり、「そろばん」という小カテゴリーが存在しています。

先ずは、その市場に需要があるのか?を把握しました。「KEEPA」というプラグインをご存知でしょうか?KEEPAは欧州で開発されたAmazon向けの調査ツール(プラグイン)で、過去からの販売推移(ランキング形式)や価格推移を表示してくれます。有料版にアップグレードすると、商品毎の在庫数が見れることから、毎日定点観測することで、特定の商品の「在庫数の推移」を追うことが可能です。この推移結果から、競合商品の在庫の減少スピード(≒販売数)を推定することができました。(尚、昨今では設定方法の変化で、在庫数が見れる商品が少なくなっていることも付記します)

又、Googleでどれだけ検索されているのか?も需要把握のヒントになります。Googleが提供している無料ツールの「Google Trend」を使って「そろばん」と検索すると、10年スパンで検索ボリュームが一定していて、長期的には伸びている傾向があることも分かりました。

図:長期の「そろばん」検索ボリュームの推移。数値は指数。
(データ元はGoogle Trend)

また、検索のボリュームにはトレンドがあり、2~4月、つまり入学シーズンに急上昇していることも理解できました。

図:月別の「そろばん」検索ボリュームの推移。数値は指数。
(データ元はGoogle Trend)

以上より、市場規模が一定数あり、新入学シーズンに販売の大きな波が来ることが分かったことで、1月末から2月頭にかけて商品を投入したら、販売の波を作ることができるのではと仮説を立てました。

余談ですが、先ほど紹介したツールの「KEEPA」は無料版でも使うことができます。過去からの価格推移を見ることができるため、アマゾンで商品を購入するときにKEEPAを入れておくと、セール品などを購入する前に「自分が高値掴みしてないか?」を知ることができます。パソコンでの操作がおススメです。

(ご参考:KEEPA)https://keepa.com/#!

2. Competitor(競合の分析)

競合他社の商品が、各カテゴリーの「ベストセラー」から把握できることはお伝えしましたが、競合他社の強み・弱みを評価するためには、「競合のお客様の声」を聞くことが近道です。ベストセラーランキングの上位に入っている競合他社のレビューを分析しました。
ここで大事なのは、ポジティブなレビュー(競合の強み)だけでなく、ネガティブなレビュー(競合の弱み)も確認することです。競合の弱みを、自社で上回ることができれば、同じ価格でも「相対的に勝っている状態」を作りだせるからです。

実際に競合他社のレビューをじっくり読んでいくと、品質に関するネガティブなレビューが散見されることが分かってきました。そして、コメントをしたレビュワーも「お子さんを持つママ」であるようなコメントを多数見つけることができました。

また、実際に競合他社の商品を購入して、レビューの内容を、事実として確認することができました。こうした分析の結果、競合他社との比較を下記のようにまとめました。

図:そろばん製品の比較表(筆者が実際に作っていたエクセル資料より)

1位:A社。「ご破算機能」があるものの、「品質」に課題がありそう。
2位:B社。A社と同等の商品を同じテイストで安く販売している、中国の出品者。
3位:C社。日本の伝統メーカー。「品質」は素晴らしいが、「ご破算機能」がない。

結論として、「品質」と「ご破算機能」を両立した商品が見当たらないことが分かりました。
※ちなみに、ご破算機能とは、そろばんの計算をリセットして初期状態(そろばんの珠が0に戻っている状態)にする操作のことです。従来のそろばんでは、ご破算のために本体を上下に動かす作業が必要でしたが、「ご破算機能」があることで、「ワンタッチで」初期状態に戻すことが可能となります。

これまでの調査から、
・「誰に」:子供を持つママに 
・「何を」:品質の良い、ワンタッチそろばんを
・「どのように」:「品質+ご破算機能+α」を訴求して販売する

というコンセプトで商品を販売したら、競合他社とも戦えるのでは?という仮説をもって商品開発を進めました。

(具体的な商品開発は本稿の主旨と逸れるため割愛しますが)次に、出来上がった商品を「どうサイトに掲載するのか?」という点を考えるために、改めて競合他社のサイト情報(商品カタログ)を研究してみました。競合の商品カタログを1枚目・2枚目と順に整理すると、競合他社がどのポイントを・どういった表現で推しているのかが明確に見えてきます。その上で、自社はどんな内容を謳ったら効果的か?を表に落とし込んでいきます。

競合他社の訴求点と併せて、自社の訴求点を言語化するこの表は、業務委託をする上での強力な「指図書」になります。

図:競合他社の訴求の仕方を整理(筆者が実際に作っていたエクセル資料より)
一番左の列が当社商品

概して「売る人」と、「デザインする人」のテイストは異なるものであり、どれだけ細かく作業内容を定義(要件定義)できるかが、「少ない手戻りで」「品質の高いデザイン」の成果物に直結します。競合他社の訴求方法などを参考にしながら、自社の依頼内容を細かく表に落とし込むことで、期待値に近い成果物が出来上がることが多くなります。実際に、指示書をもとに作業指示を行った結果として、下記のようなカタログができあがってきました。

1枚目 付属品が多い、2枚目 ご破算ボタンと説明書、3枚目 品質へのこだわり、4枚目 (改めて)付属品の多さ
5枚目 そろばんの効果効能、6枚目 他社比較、7枚目 (再度)品質保証、8枚目 商品のスペック
図:当社商品のカタログ

想定していた入学シーズンの前に商品開発・カタログ製作などの市場投入準備を間に合わせた結果、投入後暫くして、アマゾンのそろばんカテゴリーでベストセラー(1位)を獲得しました。そして、暫くの間ランキング上位の座を維持し続ける結果となりました。事前に市場把握・競合分析をした上で、自社の強みや、訴求ポイントを明確にして戦うことで、市場上位に食い込むことができる事例となりました。

最後に

如何でしたでしょうか?アマゾンに限らず、どんなECサイトであっても、3Cの考え方は必須の視点です。自社商品だけの視点ではなく、一歩引いて、「市場ニーズ」「競合他社」の情報を俯瞰して、自社の戦い方を決めていくことが大事です。皆様のビジネスに少しでも参考になれば幸いです。

コラムニストプロフィール

尾亦 周平(おまた・しゅうへい)

資金調達に強い、中小企業の海外展開サポーター
Zen Japan代表取締役
中小企業診断士/経営革新等支援機関
卒業後、18年間に亘って海外ビジネスに従事。ダイキン工業のミャンマー事務所長を含めた9年間の海外駐在や、アマゾンジャパンでのストア運営を経験後、2020年に独立・開業。
「海外進出」「WEBマーケティング」「補助金活用」の3点を切り口に、日系メーカーの海外進出支援に奔走中。
https://zenjapan.co.jp/