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動画制作は「スマホ」と「パワポ」があれば始められる

公開日:2023/12/25

菅野契也(かんの・けいや)

動画制作の準備段階として、シナリオ作りは必要不可欠です。
前回のコラムでは、「だれに」見てほしい動画なのか、「どこで」見られる動画なのか、「なにを」見せる動画なのかを考えるところから、動画制作の一歩目を踏み出すというテーマで書きました。このコラムでは、スマホを使った動画撮影のポイント、パワポを使った動画編集のポイントについて解説していきます。

専用の機材・ソフトはあるけれども…

社内で動画を撮り始めることが決まった時に、「カメラを買わなければ」と言って、家電量販店に向かい、十数万円でビデオカメラを買うというのが、ごく一般的な流れです。ただ、社内での動画制作が定着するかどうかも分からずに、高価なビデオカメラを買うというのは躊躇される方も多くいます。
また、動画編集ソフトについてもパソコンに付属しているiMovieなどの無料のものから、数千円ほどのソフト、さらにはAdobe Premiere Proなどのプロ用のものまで数多くあり、どれが使いやすいのか悩むところだと思います。

「スマホ」と「パワポ」があれば始められる

もしビジネスとして動画制作をし、制作費をお客様からいただくのを目的とするのであれば、高価なカメラに投資をして、慣れない動画編集ソフトの使い方を習得する必要があります。
しかし、自社のビジネスの紹介やPRのために、社内で動画を制作するのであれば、高額な初期投資や、時間をかけての動画編集ソフトの習得はなるべく避けたいというのが本音だと思います。

そこで使うのが「スマホ」と「パワポ」です。

今の時代、誰しもがスマホをポケットに入れていると思います。そして、2015年に発売されたiPhone 6s Plus以降の機種をお使いの方はフルハイビジョンの4倍の画質となる4Kの動画を撮影することが可能です。一昔前では考えられなかった高解像度のビデオカメラを実は常に持ち歩いているという素晴らしい時代です。最新の機種には手ぶれ補正機能や、高度な画像処理技術による明るさの調整なども可能になっていて、家庭用ビデオカメラよりも優れている点があるほどです。

パワポ(PowerPoint パワーポイント)は、「Word ワード」と「Excel エクセル」と並んでMicrosoftオフィスの中で一番良く使われているソフトの一つです。もともとはプレゼン制作のソフトですが、機能性や自由度の高さから、簡単なドローツールとしても使われています。そのパワポにはOffice 2013以降、PDFの書き出しと並んで、動画ファイルとして書き出すという機能が追加されました。こちらの機能と他の機能を組み合わせれば、簡単な動画編集ソフトとして使うことができてしまいます。
見慣れない動画編集ソフトで「タイムライン」や「キーフレーム」の使い方に苦戦するよりも、まずはパワポで始めてみましょう。

動画撮影の3つのポイント

いざスマホを取り出し、撮影しようとしても、どうしても素人っぽい映像になってしまうという悩みを何度もお聞きします。そこで、今回は素人っぽい映像を脱するためのポイントを3つに絞って解説します。

スマホを動かさない

写真を撮る時には、スマホを両手でしっかり持ち、手ぶれしないように脇を締めて撮るという意識を持っている方がほとんどだと思います。しかし、動画になった途端に「動画だから何かの動きをつけなければ」という考えが働き、被写体に近づいていったり、上下左右に動かしてみたり、ズームしたりしていないですか?「カメラを動かす」というのはとても難しいので、プロの方たちは何十万円もする高精度で滑らかな動きができる三脚を使っています。それぐらい高度な技術のため、適当に動いてしまうと、どうしてもホームビデオっぽくなってしまいます。
このような状況を回避するために、まずできることは「スマホを動かさない」ということです。三脚を使うと設置できる場所が限られてきてしまうので、まずは手持ちで問題ありません。ただ、一つの視点を決めたら、動かさずに撮影してください。動く画像と書いて「動画」ですが、この「動」を勘違いしないでください。撮影者が「動く」必要はありません。撮られている被写体が「動く」のがポイントです。もちろん、動かない被写体であれば、カメラを動かす必要がでてくる場面もでてくると思いますが、まずは社員の方などに出演を依頼して、何らかの動きを出すところから始めてください。
「えっ、写真ではなくて、動画だったの!?」と被写体の人に言ってもらえるぐらいになれば成功です。

被写体に寄る

「一度にたくさんのことを見せたい」、「仕事の邪魔になりたくないから一歩引いておく」などの心理が働いた結果、広めの映像になりがちではないでしょうか。例えば、工場で機械を撮影する場合、機械の全体像を映そうと思ったことはありませんか?しかし、広めに映像を撮影してしまうと、本当に見てほしい部分がぼやけてしまい、視聴される方に対してインパクトがない映像になってしまいます。また、仕掛品やお客様の図面、使用中の工具など「映ってはいけないもの」が映り込む可能性も増えてしまいます。これをあとでぼかすのは多大な労力を必要としますし、中途半端なぼかしは逆に目立ってしまいます。
見せたい部分にぎりぎりまで近寄って、情報を整理してあげることが動画を見せる企業と視聴者の両方にとってメリットをもたらします。

1シーンは最低10秒

「10秒」という時間を聞いて、長く感じますか?短く感じますか?普段生活している中であれば「短い」と感じる場面がほとんどだと思います。しかし、動画を撮影している場合はどうでしょうか。ぜひ、一度試していただきたいのですが、満足のいく映像を撮れたと思うまで動画を撮影し、秒数を確認してください。たぶん、5秒から7秒ぐらいのことが多いと思います。次に、動かずに10秒数えながら、同じシーンを撮影してみてください。思っているよりも長く感じると思います。
最終的に使う尺が3秒から5秒ほどであったとしても、前後2.5秒ずつぐらいの余裕がないと、録画ボタンのスタート・ストップを押すタイミングの手ぶれや、トランジションの余白などが足りずに編集で苦労することになります。

動画編集の3つのポイント

撮影した映像を見てもらうためには編集作業が必要ですが、こちらも奥が深いので、最低限押さえておくべきポイントを3つに絞ってお伝えします。

トランジションを使わない

動画編集ソフトに必ずある機能のひとつに「トランジション」があります。フェードや、いろいろなエフェクトでシーンを切り替える機能です。ただし、この機能を使うと、どうしてもホームビデオの雰囲気がでてしまいます。改めて、テレビのコマーシャルや、映画などを見てみてください。シーンの切り替わりにはエフェクトが使われておらず、単純に切り替わっていることに気がつくと思います。まずは単純にシーンが切り替わるようにし、もしフェードなどの機能を使うのであれば、冒頭のタイトルからの切り替わり、最後の会社のロゴの表示などにのみ使うようにしましょう。

映像で伝える

やりがちな編集に「小さな文字で長いテロップを入れる」というのがあると思います。なるべく多くのことを正確に伝えたいがあまり、映像ではなくテロップが主体になってしまう動画になってしまうのは勿体ないです。前述の通りに被写体に寄っていれば、画面に表示されている情報は制限され、あまり多く説明しなくても伝わる映像になっているはずです。せっかく動画にしているのであれば、まずは映像で伝えることを意識し、あくまでもテロップは補足だけにします。

ポイントをひとつに絞る

動画制作についてのセミナーやトレーニングを開催していると必ず聞かれる質問に「何分ぐらいの動画がベストですか?」というものがあります。前回のコラムにも書いたように、「だれに、どこで、なにを見せるのか」によって変えていくとお答えしますが、そうは言っても、あまり長い動画は視聴してもらえないということは、想像に難くありません。大人気YouTuberのコンテンツであれば、何十分でも観たいと思いますが、PRや営業の動画は心理的に3分未満ぐらいが良いでしょう。そうなった時に、1本の動画にあれもこれもと詰めることはできません。ポイントを絞り、ひとつのポイントについて、1本の動画にするという形であれば、1本あたりの動画編集の負担も減りますし、視聴される方も気軽に観てもらうことが可能になります。

ここまで「スマホ」と「パワポ」があれば、社内で動画制作を始めることができると書いてきましたが、いかがでしょうか?10年前と比べれば、はるかに簡単に始められる時代にはなってきましたが、相変わらず撮影や編集には慣れが必要ですし、時間もかかります。しかし、今まではできなかったPR方法として大きな可能性を秘めていますので、ぜひ、挑戦していただき、動画を活用してください。

コラムニストプロフィール

菅野契也(かんの・けいや)

御国義塾高等部卒業後、カンノ・カンパニーに入社。2015年に中小製造業専門の動画制作サービス「動画製作所」を立ち上げる。東京都中小企業振興公社や三鷹商工会などの公的機関も含め制作した企業は200社を超える。2020年に代表取締役に就任。1988年生まれ、東京都三鷹市在住