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動画制作は「だれに、どこで、なにを見せるのか」から着手する

公開日:2023/10/20

菅野・契也(かんの・けいや)

現代において、高画質で動画の撮影できるスマホが普及し、YouTubeをはじめとするプラットフォームで気軽に動画を配信することが可能になっています。ただ、役に立つ動画を作るためには入念な準備が必要不可欠です。このコラムでは、動画制作のシナリオ作りの基礎となる「だれに、どこで、なにを見せるのか」の視点に焦点を当てて解説します。

DVDの動画からネット時代の動画へ

スマホやYouTubeが普及する前は、ビジネスで動画を活用するとなった時には、映像制作会社に依頼をし、DVDを配布するという大掛かりなプロジェクトが主流でした。しかしこの数年で、DVDドライブを持たないコンピュータが増え、映画の視聴もストリーミングに移行しました。また、YouTube、Instagram、TikTokなどが日常生活の一部となり、動画は私たちの生活に浸透しています。 さらには、新型コロナウイルスの影響により、ウェブサイトへの動画の組み込みやオンライン展示会での動画の使用が増えました。

ネット時代の動画の特徴

ネット時代の動画は、DVDとは異なる特徴持っています。以下にいくつかのポイントを示します。

1.動画の用途
DVD時代の動画は「会社紹介」がほとんどでした。ただ、ネット時代になると、用途が広がり、会社紹介だけでなく、新製品・新サービスの紹介にも動画が活用されるようになってきました。また、販促用だけでなく、製品・サービスを導入された方に向けた取扱説明書の動画も根強い人気があります。さらに、活字離れの進んでいる若者を採用する際にも動画は効果的です。

2.動画の長さ(尺
ネット時代の動画は、あまり長いものだと見てもらえないというのは周知の事実だと思います。自分が好きなコンテンツであれば、何十分でも喜んで視聴しますが、営業用や実務的な動画であれば、簡潔で的確なもののほうが視聴されます。具体的な長さは内容によっても変わってくるので一概には決められないですが、3分未満というのはひとつの目安になります。ワンポイントで一本の動画にまとめるようにし、複数のポイントがあれば、その数だけ動画を分けるほうが視聴者の心理的なハードルも下がります。

3.動画のシナリオや構成
魅力的なコンテンツで溢れている現代においては、タイパ(タイムパフォーマンス)が求められています。若い人の中では映画を倍速で観るという人も少なくありません。そのような中で、営業活動に動画を活用するのであれば、最初の数秒で結論が分かるような構成にしておく必要があります。いくら30秒の動画であっても、結論を先延ばしにしているようなものは途中で離脱されてしまいます。新聞記事のような構成をイメージすると良いと思います。最初のタイトルで80%の情報は把握でき、さらに情報を知りたい人はリード文、本文へと読み進んでいきます。営業用の動画も最初の数秒で主要なメッセージを伝え、補足や詳細についてはその続きに持っていくという構成が求められています。

4.動画の撮影頻度
YouTubeで「5年前」にアップロードという動画がでてきたら、あまり新鮮なイメージは抱かないのではないでしょうか。昨今の事情からすると、少なくとも3ヶ月に1回は動画をアップロードしていると、アクティブに活動しているということが伝わります。動画制作のコストが劇的に下がっている今であれば、この更新頻度も十分に実現可能です。

5.動画の雰囲気
特に営業用の動画の場合、適度な手作り感が動画の雰囲気に求められます。YouTubeやFacebook、X(旧Twitter)などのSNSには、大手メディアにはない「身近な雰囲気」があります。その中で、テレビ制作会社が作ったきれいすぎる動画は「広告」と認識されてしまい、すぐに飛ばされてしまいます。あまりにも音が聞き取りづらい、映像が見づらいものは敬遠されますが、きれいすぎる動画も視聴してもらえません。

このようなネット時代の動画の特徴を踏まえ、従来の動画制作とは違う新たな視点や、柔軟な発想が求められています。

「だれに、どこで、なにを見せるのか」

動画の配信が容易になり、お客様からも動画で製品・サービスについての動画を求められる企業も増えていると思います。そのような動画へのニーズがあると、まず、最初にやるのは動画制作会社をGoogleで検索して見積もりを依頼するか、社内で一度撮影してみるという二択ではないでしょうか。しかし、その前に考えるべきなのが動画を「だれに、どこで、なにを見せる」ために使うのかということです。いくつかの例で説明をしていきます。

1.潜在客向け、展示会場で、新製品を
展示会場で動画を使いたいという例はよくあると思います。様々な製品・サービスが出ている中で、潜在客(まだ自社のことを知らないが、潜在的なニーズを持っているお客様)にアピールしていくためには、アイキャッチのような動画が有効です。展示会場で動画を流している時には、動画のどのタイミングで見られるのかが分からないので、最初から最後まで見られることを前提にするのではなく、お客様が目を留めた段階で、自分に関係のある製品・サービスであるかが分かる必要があります。もし、興味があると思えば足を止めてもらえますし、足が止まれば、営業の方が話しかけることができます。逆に言うと、営業の方がいらっしゃる展示会場では、アイキャッチの動画ですべてを説明する必要はありません。

2.見込み客向け、営業現場で、クローズドな技術情報を
展示会やテレアポなどで名刺を交換したお客様は、潜在客から見込み客へと変わります。見込み客となったお客様にはさらに詳しい技術情報や、インターネットや展示会などの公の場では公開できない情報をお伝えして、購買へと結びつけていく場合があります。そのような現場で使う営業用の動画は、YouTubeなどに公開せず、営業現場で、営業担当が自分のタブレット等を使い、見込み客の方に情報を見せていきます。そのような見せ方であれば、情報漏えいしてしまうリスクを減らしながらも、公開できない自社ノウハウなどを見せることが可能になります。

3.顧客向け、現場で、製品・サービスの使い方説明を
最終的に製品・サービスをご購入いただいたお客様向けの動画としては、取説動画があります。文章や挿絵だけでは説明が難しい取扱説明書も動画であれば簡単に説明ができます。全工程を動画にするのではなく、まずはお客様からよく問い合わせがある部分などから動画化していくと、効率良くお客様のニーズに応えることができるでしょう。動画への導線については、取扱説明書、製品のラベル等にQRコードを埋め込むことで、顧客が簡単にアクセスすることが可能になります。

以上のように「だれに」見てほしい動画なのか、「どこで」見られる動画なのか、「なにを」見せる動画なのかを考えることは、動画制作の成功に向けての重要な一歩目になります。これを踏まえて、マーケティングで動画を活用いただき、ビジネスの発展につなげていただければ幸いです。

コラムニストプロフィール

菅野契也(かんの・けいや)

御国義塾高等部卒業後、カンノ・カンパニーに入社。2015年に中小製造業専門の動画制作サービス「動画製作所」を立ち上げる。東京都中小企業振興公社や三鷹商工会などの公的機関も含め制作した企業は200社を超える。2020年に代表取締役に就任。1988年生まれ、東京都三鷹市在住