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需要の山は、いつ来ますか ~ ECモールの季節需要を読んで備える~

公開日:2026/10/14

中島賢喜

セールの案内が届いてから、慌てて仕入れを増やす。バナーを作り、価格を決め、気づけば当日を迎えている。

ECモールを運用していると、こうした進め方になりがちです。準備の時間が足りないというより、いつ何が売れるのかを事前に把握できていないことが原因かもしれません。

需要の動きは、ある程度先まで読むことができます。読むことができれば、慌てる場面は減らせます。

このコラムでは、自社の需要の山を見つけ、それに備えるための考え方をお伝えします。これから出店を検討されている方にとっても、年間の見通しを立てる材料になるはずです。

1. 需要には山があります

同じ商品でも、売れる時期とそうでない時期があります。そして、その差の大きさは商材によって違います。

経済産業省の令和6年度デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査、2024年の市場が対象)によると、物販系分野のEC化率はカテゴリによって大きく差があることが示されています。書籍・映像音楽ソフトは56.45%、生活家電・AV機器・PC等は43.03%、生活雑貨・家具・インテリアは32.58%です。EC化率とは、対面販売を含むすべての商取引のうちネット経由が占める割合を指しています。

これは1年を通した割合で、いつ売れたのかまでは示していません。それでも、商材によってネット通販の浸透度がこれだけ違うことは読み取れます。

需要が動く時期も、商材ごとに違います。ギフト需要のある商材は贈答の時期に、季節家電は気温が変わる時期に山が来ます。

知っておきたいのは、業界全体の傾向より、あなたの会社が扱う商材の山がいつ来るのかということです。*

出典:
* 経済産業省「令和6年度電子商取引に関する市場調査」(2025年8月26日公表・2024年の市場規模)
https://www.meti.go.jp/press/2025/08/20250826005/20250826005.html

2. 自社の山を見つける3つのデータ

山を見つけるのに、特別なツールは必要ありません。次の3つを重ねるところから始められます。

2-1 自社の受注履歴

出発点にしやすいのは、自社の受注履歴です。ECモールの管理画面から、月別の受注件数と売上を書き出してください。また、自社のECサイトや卸売の受注実績、実店舗がある場合はオフラインでの実売データも加えるとチャネルの影響に左右されづらい平滑なデータとなり、より客観的なデータを基に判断ができるようになります。

表計算ソフトに貼り付けて、月ごとの棒グラフにするだけで十分です。2年分あれば、その年だけ起きたことか、繰り返している動きかを見分けやすくなります。

ひとつ気をつけたいことがあります。過去にセールや広告を集中させた時期があれば、その山が映しているのは需要そのものより、自社の施策かもしれません。グラフを見るときは、当時どんな施策を打っていたかも思い出してみてください。

例えば、月別に並べたら3月と9月に山が2つあり、8月が最も低かったとします。それだけで仕入れをいつ厚くするか、いつ絞るかの見当がつきます。

1年分しかない場合でも、まず記録を残すところから始めれば、来年には比較できる材料を手元に準備することができます。

2-2 検索需要

受注は結果です。その手前で、お客様は検索をしています。

Googleトレンドなどのツールを使って、特定のキーワードが月ごとにどれだけ検索されているかを確認できます。自社の商品名やカテゴリ名を入れて調べてみてください。

受注のピークより1〜2ヶ月早く検索回数が動いていれば、それが準備をはじめる合図になります。

ただし、検索が増えた時期と実際に買われた時期は一致しないことがあります。高額な商品ほど、調べてから買うまでの間隔が長くなりがちです。自社の受注履歴と並べて、どれくらいの差があるかを確かめておきましょう。

2-3 ECモールの公表情報

ECモールが実施するセールやイベントの案内は、出店者向けの管理画面や公式のお知らせで事前に告知されます。

企画の名称も仕組みもECモールごとに違うので、まずは自社が出店しているECモールの案内を、そのまま年間カレンダーに書き写すところから始めてください。

この3つを同じ時間軸に並べると、自社の山と外部イベントの位置関係が見えてきます。

3. 山に合わせて動かすもの

山の位置がわかったら、そこから逆算して「3つ」を動かします。動かす順番には決まりがあります。

動かす順番動かすものいつまでに理由
1在庫山の45〜60日前仕入れと入荷に時間がかかる。ほかの項目より先に決める必要がある
2人手山の14日前出荷と問い合わせ対応の体制を確保する
3広告山の3〜7日前早すぎると費用がかさみ、遅すぎると出遅れる
表1:山に向けて動かすものと締切の目安

※日数は目安です。仕入れ先の条件や商材によって変わりますので、自社の実情に合わせて調整してください。

「在庫」が最初に来る理由は単純で、後から増やせないためです。仕入れ先の生産や入荷には時間がかかります。

例えば、ギフト需要のある食品を扱う事業者の例を考えてみましょう。贈答の時期に山が来るとわかっているなら、その2ヶ月前には仕入れ数量を決めておく必要があります。

「人手」を14日前に置くのは、募集や引き継ぎに時間がかかるためです。山が来てから増やそうとしても、出荷が滞る局面には間に合いません。

「広告」を最後に置くのは、費用が日単位で発生するためです。山の手前で絞り、山の直前に集中させるほうが、同じ予算でも効率が上がりやすくなります。

ただし、同じ時期は多くの店舗が広告を出すため、出稿単価が上がることもあります。前回の実績と比べながら調整してみてください。

4. セールは、山をつくる場でしょうか

ここで一度、考えてみていただきたいことがあります。

ECモールのセールは、需要を新しく生み出しているのでしょうか。それとも、もともとあった需要が、その期間に集まっているのでしょうか。

多くの場合、後者の要素が大きいと考えられます。買う予定だった人が、安くなる時期を待って買う。つまりセールは、需要の山を作るというより、ECモールのセールによってつくられた山に乗るための機会という側面があります。

これは、自社の受注履歴で確かめられます。セール月の翌月が落ち込んでいれば、需要が前倒しされた可能性があります。セール月とその前後を2〜3ヶ月まとめて、前年の同じ時期と比べてみてください。合計が増えているなら需要が上乗せされたと言えますし、ほぼ変わらないなら山が動いただけということになります。また、ECモール以外の販路と比較することで、山が動いただけなのかどうかを判定することができます。

そう捉えると、判断が変わってきます。自社の山とセールの時期が重なるなら、乗る価値は大きいでしょう。ずれているなら、無理に合わせる必要はないかもしれません。

例えば、自社の山が春に来る商材を扱っていて、大きなセールが冬にあるとします。冬のセールに全力を出すより、春に向けて在庫と広告を厚くするほうが、結果として残る利益は大きくなるという場合もあります。

ECモールのセールに出ないという判断は、後退ではありません。自社の山を知っているからこそできる選択です。

5. 山を外すと、何が起きるか

需要の読みは、必ず当たるものではありません。外したときに何が起きるかを、先に知っておくと備えやすくなります。

外し方には2つの方向があります。

外し方起きること影響の性質
少なく見積もった売り切れて、売れたはずの売上を逃す
(機会損失)
在庫としては翌期に残らない。
ただし、お客様が他店で買う可能性はある
多く見積もった在庫が残り、保管費が資金繰りを圧迫する翌期以降も影響が及ぶ
表2:読みを外した時に起きること

どちらに寄せるかは、事業の状況によって変わります。手元の資金に余裕があり、商品の日持ちが長いなら、多めに仕入れても在庫による影響は限定的で、挽回できます。

一方、日持ちが短い商材や、資金繰りに余裕がない場合は、仕入れを少なめに抑えるほうが安全です。売り切れは悔しいものですが、在庫が翌期の負担になることはありません。

例えば、日持ちが3ヶ月の焼き菓子と、賞味期限が2週間の生菓子とでは、とるリスクが違います。

正解は1つではありません。自社がどちらの痛みに耐えられるかを、事前に決めておくことが大切です。

6. 来年のために、記録を残す

需要予測の精度は、記録の量に左右されます。1年目から当てようとする必要はありません。

セールや繁忙期が終わったら、次の項目を残しておいてください。

項目記録する内容
期間いつからいつまで。
企画参加したECモールの企画
投下した費用仕入・広告・値引きの額
結果受注件数と売上
在庫売り切れたか、残ったか
想定との差思ったより早く売れた、この商品は動かなかった、など
表3:翌年のために残す記録

特に最後の項目が効きます。数字には残らない気づきが、翌年の判断を支えます。

3年続けると、自社の需要カレンダーができあがります。そこまで来れば、セールの案内が届いてから慌てることはなくなるはずです。

まとめ

需要には山があり、その位置は自社で蓄積したデータから読み取れます。
自社の受注履歴、検索需要、ECモールの公表情報。この3つを重ねることが出発点です。
山が分かれば、在庫・広告・人手を、それぞれの締め切りから逆算して動かせます。
そして何より、記録を残すこと。今年の記録が、来年のあなたを助けてくれます。


※本文中の事業者の例(ギフト食品、焼き菓子と生菓子など)は、説明のために設定した仮のものです。

※ECモールが実施する企画の内容や条件は変更されることがあります。最新の情報は各モールの公式情報をご確認ください。

コラムニストプロフィール

中小企業診断士

中島 賢喜(なかじま・まさき)

アパレル業界からECコンサルタントまでの豊富な経験を持ち、多角的な視点でビジネスを促進します。
ブランド構築、マーケティング戦略立案と実行、マーチャンダイジング、ECサイト運用、WEBマーケティング領域において戦略的分析・運用を得意としながら、経営改善提案や業務プロセスの改善提案にも対応可能です。
お客様のビジネスに深い理解を持ち、最適な戦略で事業の成長を目指すために、経営課題と顧客のことを共に考え抜き伴走支援をすることを信条としています。