近年、多くの企業が「生産性向上」や「業務の効率化」、「人手不足の解消」などの経営課題を解決する手段として、さまざまなデジタルツール導入に取り組んでいます。クラウドサービスによるデータ管理や、オンライン会議システム等、用途は多岐にわたり、導入しやすいツールも増えてきました。
一方で、「導入してみたがうまく活用されない」「新しい仕組みに慣れずに現場が混乱してしまう」といった声を耳にすることも少なくありません。本記事では、デジタルツール導入プロジェクトに取り組む際に押さえておきたい成功のポイントを解説いたします。デジタルツール導入を進めるための参考としていただけますと幸いです。
プロジェクトの前段階で押さえておきたいこと
経営課題につながっているプロジェクトかを明確にする
はじめに重要なのは、「なぜデジタルツールを導入するのか?」をしっかりと社内で共有することです。単に「最新のツールだから」「周りが使っているから」という理由だけでスタートしてしまうと、使い方が定着しないまま終わってしまうことがよくあります。
自社が抱えている経営課題を整理したうえで、「顧客管理の効率化」「在庫の見える化」「受発注のミスを減らす」といった具体的な目標を設定してからツールを選定することが大切です。こうすることで、プロジェクトを進める際のモチベーションも高まり、「本当に効果が出ているのか?」といった本質的な視点を持ち続けることができます。
担当者を設置し、評価と連動させる
デジタルツール導入のプロジェクトでは、専任の責任者を明確にすることが重要です。経営者や取締役、あるいは部門長が自ら指揮を執るケースもあれば、若手の社員がプロジェクトリーダーとなる場合もあります。いずれにしても「最終的に誰に判断を仰げばよいのか」をハッキリさせることで、プロジェクト進行が滞りにくくなります。
また、プロジェクトの進捗状況や成果を評価にも組み入れることで、取り組みの本気度が高まり、導入後の活用フェーズでも力を入れてもらいやすくなります。評価との連動がないと、「日常業務が忙しくて手が回らない」といった理由で優先度が下がってしまう可能性が高くなってしまいます。
効果の振り返りを定期的に実施する
ツールの導入目的を決めても、時間の経過とともに「そもそも何が目的だったか」を見失ってしまうこともよく起こります。プロジェクト前から「どのタイミングで効果を振り返るか」「どのような指標で評価するか」を明確にしておくことが大切です。
たとえば、月末や四半期ごとに「受注数」「顧客満足度」「生産性」といった数値を確認し、ツール導入前とどれだけ差が出ているかを比較する方法もおすすめです。こういった振り返りを継続できれば、ツールの使い方の軌道修正がしやすくなり、問題の早期発見にも繋がります。
実行にあたってのポイント
外注先企業や外部コンサルタントへの依頼のポイント
デジタルツール導入は、導入するシステムやソフトだけを理解していればいいわけではありません。解決したい課題は、生産性向上や利益率の向上など、経営指標そのものであることが多いです。そのため、ツールの選定や導入支援を依頼する外注先企業・外部コンサルタントを選ぶ際は、「ツール自体を理解していること」に加えて「経営レベルで課題を捉え、解決に向けて取り組める人であること」が重要です。たとえば、ITベンダーでも中小・中堅企業向けの経営コンサルティングノウハウを持っている担当者がいる会社を選ぶなど、より経営視点で取り組んでもらえる方へ依頼するのをおすすめします。コスト削減や効率化の数字だけでなく、「社員が使いこなせるようにするためには」「現場の流れを大きく変えすぎないか」など、現実的な視点も踏まえて進行できる方や会社を選びましょう。
運用の定着、ノウハウ蓄積のポイント
デジタルツール導入は、ツールを入れるだけでは完結せず、運用や定着、ノウハウの蓄積により中長期的に活用していく体制をつくることが重要になります。
最初に、社長や経営陣が積極的に新しい取り組みを後押しする姿勢を示すことが大切です。社長自身がツールの勉強会やテスト導入の打ち合わせに顔を出すだけでも、社員の意識は大きく変わります。経営陣が率先して取り組んでいると分かれば、社員も「会社を良くしよう」という想いを持ちやすくなり、ツール導入に対して協力的になって時間を割きやすくなります。
次に、ツール担当者が導入の業務に集中できるよう、業務分担の調整を行うことも重要です。やる気と能力のある方を抜擢し、兼務ではなくなるべく専任とするなど、集中できる環境を構築しましょう。
また、運用ノウハウは明文化し、手順書として社内に蓄積していきましょう。日々の運用の中で見つかった改善事項やより良い使い方を、いつでも誰でも見られるような状態にしておくことで、ツールの活用レベルの底上げにも繋がります。また担当者の異動や退職に備える意味でも、常に手順書を更新し続ける運用が理想です。
実行時に押さえておきたい注意点
導入が完了してからが本当のスタート
デジタルツールは導入完了がゴールだと思ってしまいがちですが、実際には導入してからが本当のスタートです。特に導入直後は、「どこをクリックすれば良いのか分からない」「どうしてもうまく動かない」など、現場から大小さまざまな問い合わせが出てきます。こうした声に対して素早くフォローし、運用ルールを適宜修正しながら定着に向けて一丸となって取り組むことが重要です。
既存の業務フローとの両立期間を設けながら移行する
デジタルツールの導入に伴い業務フローを一気に切り替えようとすると、慣れない作業に時間がかかったり想定外のトラブルが発生したりと、かえって業務が滞る状態になってしまうこともあります。業務フロー全体ではなく、一部分から始める、一部の業務フローは並行して運用をする期間を設けるなどとすることで、スムーズに移行できるようにしましょう。
成果が見えない移行期間も進捗を振り返り評価する
デジタルツールの導入は社内外の関係者も多くなりがちで、合意形成や設計など、意外と時間がかかり、思うように成果が見えない時期が続きます。担当者のモチベーションを下げないようにするためにも、「今週はここまで進んだ」「こんな課題を解決した」といった小さな進捗をしっかりと振り返り、社内共有や評価をしながら進めることをおすすめします。そうすることで、経営者や担当者の活動が社内でも理解され、前向きに取り組みを続けることができ、社内の協力も得やすくなります。
自社ならではの強みを消さないように注意
デジタル化を推し進めるあまり、自社の強みや独自性のあるポイントを消してしまっては本末転倒です。柔軟な顧客対応や、カスタマイズ性、担当者との相性や関係性の良さなど、デジタル化する中でも残しておくべき強みは多くあると思います。大切なのは、「自社の強みを活かすために、どのようにツールを使うか」を常に意識することです。たとえば、顧客情報の一元管理によって、よりスムーズに顧客対応ができるようになるなど、むしろツールを活用することで強みをどう伸ばしていくかという方向で検討を進めていきましょう。
自社をよく理解してくれる外注先企業や外部コンサルタントを選ぶ
外注する場合の外注先企業や外部コンサルタントは、デジタルツール導入の成功を左右する重要なパートナーです。導入コストや実績だけではなく、「自社のことをどれほど理解してくれるか」「親身になって相談に乗ってくれるか」という点を重視すると、結果的に無理なく導入を進めやすくなります。
地元企業などからの紹介で信頼できる外注先企業や外部コンサルタントを見つけるのも一つの方法です。東京都中小企業振興公社のような公的機関を活用して、適切なサポート事業や補助金・助成金の情報を取り入れることで、導入費用の負担を軽減できる場合もあります。こうしたサポートを組み合わせて活用すれば、社内の負担を減らしつつ成功に近づけるでしょう。
社内外の人材を巻き込み、全社で取り組む
デジタルツール導入は、担当者だけで完結するものではありません。現場の作業担当者や管理職、経営者など立場の異なる人たちが連携し、共通のゴールに向かって取り組む必要があります。導入担当者や責任者に任せきりにせず、社内のキーパーソンや現場リーダーなどを巻き込むことで、導入後のトラブルにも柔軟に対応できるようになります。
また、社内だけでなく、必要に応じて取引先や協力会社との調整も大切です。たとえば、受発注システムを導入する際に、取引先が同じシステムを使っていなければ思ったような効果が出ないかもしれません。システムの連携や互換性などを外注先や外部コンサルタントと一緒に検討し、社外関係者へも早めに情報共有することで、より大きな効果が期待できます。
デジタルツール導入プロジェクトの成功のポイントまとめ
デジタルツール導入は、「ツールを買って終わり」ではなく、その後の活用・定着こそが最も重要です。そのためにも、プロジェクトの前段階で経営課題をしっかりと明確にし、社内で担当者を設置して評価と連動させ、定期的に効果を振り返る仕組みづくりを行うことが欠かせません。
実行にあたっては、外注先や外部コンサルタントの選定や社内の人材育成を丁寧に行い、導入後は既存のフローとの両立期間を取りながら少しずつ新ツールへ移行します。成果が見えづらい移行期間も、小さな進捗を共有し合うことで社内のモチベーションを保てるでしょう。
さらに、中小企業ならではの強みを失わないよう心がけ、自社を理解してくれる外注先や外部コンサルタントを見つけることも大切です。必要に応じて公的支援機関のサポートや補助金などを活用しながら、社内外の人材を巻き込んで全社一丸となって取り組むことが成功への近道です。
デジタル化は今や企業の競争力を高めるうえで欠かせない要素になりつつあります。まずは小さな一歩からでも、自社に合ったデジタルツール導入プロジェクトを進めていくことをおすすめします。