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デジタルマーケティング、打ち手の前にまず「戦略」を描け!

公開日:2024/10/04

石井里幸(いしい・さとゆき)

私たちデジタルマーケティングの専門家は日々いろいろな相談を受けます。
中でも特に多いご相談は、
「SEOを向上させる方法を教えてください」
「SNSを使った集客がしたいです」
「メルマガはやったほうがいいですか?」
といった、「打ち手」に関するものです。
打ち手とは具体的な施策のことで、SEO、SNS、メルマガ以外にもLINE公式、Web広告、動画配信なども打ち手にあたります。このように、デジタルマーケティングには実に多くの打ち手が存在します。

「デジタルマーケティングは苦手なので避けていたけど、そろそろ本格的に着手しないと…」
相談者の多くは、このような危機感を持って相談に来られます。とはいえ、成果が出るかわからないものにいきなりコストをかけることはできない。だからSEOやSNS、メルマガといった、低予算で始められる打ち手から始めてみようかな、とお考えになるのもうなずけます。
たしかに、デジタルマーケティングにはコストをかけずに着手できる施策はあります。しかし金銭的コストは不要でも、人的コストは必ず発生します。つまり施策を行う人の時間を消費します。小規模な事業者にとって人的リソースは貴重です。ほとんどの人は本来やるべき業務を抱えており、片手間でマーケティングに取り組まなくてはならない状況なのではないでしょうか。したがって、かけられる人的リソースにはきわめて限定的であるといえます。

実は、このような状態で打ち手から取り組んでしまうと、ほぼ失敗します。
その理由は以下の通りです。

  1. 方向性がぶれることにより、無駄なコストが発生する
    打ち手から入った場合、具体的な目標やターゲット像が定まらないまま施策を進めてしまう可能性が高くなります。結果として方向性がぶれ、顧客ニーズに合致しない施策を打ってしまう、本来必要な施策が漏れてしまう、顧客になりえない層に対してアプローチし続けるなどの問題が生じます。これではいつまでたっても成果を感じることがなく、途中で断念してしまい、失敗します。
  2. 効果測定が難しくなり、施策の効果がわからない
    目標やターゲットを定めることなく打ち手に走ると、その効果を測定することが難しくなります。どの施策が成果に貢献しているのか分からず、改善点の特定や予算配分の最適化が困難になります。結果、施策を継続するため動機が損なわれ、やがて失敗します。

他にも様々な失敗理由がありますが、これらは失敗理由の中でも特に多い例です。

戦略を決めてから打ち手(戦術)を決める

そこで、失敗しないためにまず「戦略」を描くことから始めてほしいと思います。
戦略とは、「企業目標の達成のために策定する計画」とお考えください。デジタルマーケティングの文脈で戦略を策定する場合、具体的には以下を決定することになります。

  1. 達成したいゴールを決める(売上高、利益率、成約数、新規顧客獲得数など)
  2. ターゲット顧客を理解する(ペルソナを設定し、顧客ニーズを分析する)
  3. 競合を分析する(商品サービスの特徴は?差別化ポイントは?販売チャネルは?)

デジタルマーケティング戦略の策定では、これらを決めたうえで計画に落とし込むことになります。戦略が決まることにより具体的な施策、つまり「打ち手」が決まるという順番なのです。打ち手とはSEO、SNS、動画、Web広告などですね。

お気づきの方もいるかもしれませんが、戦略に対して打ち手は「戦術」と同様の意味になります。戦術とは、「戦略を達成するための施策」です。すなわち戦略なき戦術は成立しないということになります。
以上のことから、打ち手(戦術)から着手することは間違いであることがお分かりいただけるかと思います。

カスタマージャーニーマップで戦略の全体像を描く

初めてデジタルマーケティングに取り組む事業者の多くが戦術から入ってしまい、その結果失敗してしまう傾向があることをお伝えしました。
「戦略の設計が必要であることはわかった。しかし何から着手してよいのかわからない…」
このような悩みが聞こえてきます。
そこで「カスタマージャーニーマップ」という手法をご紹介します。

カスタマージャーニーマップとは、「デジタルマーケティング戦略」を可視化するための手法です。顧客が自社の商品・サービスについて購入に至るまでの道のりを視覚的に表したものです。これを作成することで顧客に対する理解を深め、最適な打ち手(戦術)を決めることができます。

以下に、ある「BtoB向けWebサイト制作会社」を対象とした、カスタマージャーニーマップの作成例を示します。

BtoB向けカスタマージャーニーマップの作成例 横軸を認知、情報収集、検討、商談、購入に、縦軸を顧客の課題、顧客の悩みと心理、タッチポイント、行動喚起、目標値に分けた表

上記の例のように、カスタマージャーニーマップのフォーマットには横軸に顧客行動(フェーズ)、縦軸に以下の項目が盛り込まれているものが多く見られます。

・顧客の課題
・顧客の悩み・心理
・タッチポイント(顧客との接点になる施策)
・行動喚起(顧客に取ってもらいたい行動)
・目標値

「カスタマージャーニーマップ」でネット検索すると様々なフォーマットがヒットしますので、ぜひ検索してみてください。他者の作成事例はとても参考になります。使いやすそうなフォーマットを探すのも良いし、EXCELなどを使って作成するのも良いでしょう。
このとき気を付けたいのは、あなたはBtoC、BtoBどちらの事業者ですか、ということです。

実はBtoCとBtoBで項目が異なります。特に上記のカスタマージャーニーマップでいうフェーズ(横軸)に違いが生じます。
BtoBの顧客行動は、認知→情報収集→検討→商談→購入といったフェーズを切り口とすることが多いです。
一方、BtoCには商談フェーズがありませんので、認知→情報収集→検討→購入とすることもあれば、認知→情報収集→検討→購入→リピート購入というように、リピート購入を追加するパターンも多く見られます。

BtoC向けに、ここではAISAS(アイサス)という有名な購買行動モデルを利用した作成方法を紹介します。AISASとは以下の頭文字を併せた造語です。

Attention(認知)…広告やメディアよって商品やサービスを知る
Interest(興味・関心)…商品やサービスなどに対して興味を抱く
Search(検索)…商品やサービスなどの情報をインターネットで検索する
Action(行動)…商品やサービスを購入する
Share(共有)…商品やサービスを購入した結果についてインターネットで共有する

BtoBは「商品・サービスを探している人」と「購入の意思決定者」が異なることが多いものですが、BtoCは同一人物であることが前提となります。そのため、AISASのような購買行動モデルがフィットしやすいのです。

このAISASモデルを使って、ある「BtoC向けキャットフードの製造・販売」を行っている事業者のカスタマージャーニーマップ作成例を示します。

AISASモデルを使ったBtoC向けのカスタマージャーニーマップ作成例 横軸を認知、興味・関心、検索、行動、共有に、縦軸を課題、悩みと心理、タッチポイント、行動喚起、目標値に分けた表

AISASモデルの特徴は、「検索」「共有」という、インターネット時代ならではの行動が組み込まれていることです。特に顧客の「共有したくなる心理」をよく把握することで、大きな集客につながることが期待できるでしょう。このことから、特にBtoC事業者はカスタマージャーニーマップを作成する際、AISASを意識して作成してみてください。

まとめ

デジタルマーケティングで成果を上げるためには、打ち手を講じるのではなく、まず「戦略」を策定することが重要であることをお伝えしました。そして戦略を可視化するためのツールとして、カスタマージャーニーマップを紹介しました。

カスタマージャーニーマップを作成することで、マーケティング活動の全体が俯瞰でき、関係者全員の意識が統一化されます。そうなれば営業部や経営層といった自社内からの理解が得られるばかりでなく、外部の協力者も得やすくなるでしょう。
外部の協力者とは、たとえば金融機関や協力会社などが考えられます。協力者が増えれば、デジタルマーケティングの成功確率を大幅に向上させることができるでしょう。

本記事では、戦略を描くことから始めることの重要性について解説しました。
SEOに取り組むべきか?それともSNSから?といった個別具体的な打ち手(戦術)については、自社の状況やターゲット顧客に合わせて検討をしてほしいと思います。また、デジタルマーケティングは日々進化しているため、最新の情報を取り入れながら、常に戦略を改善していくことが重要です。PDCAサイクルを意識しながら施策を日々回し、成果を出してほしいと思います。

コラムニストプロフィール

石井 里幸(いしい・さとゆき)

中小企業診断士、ITコーディネータ。
中小企業向けに「ITの便利さを実感してもらうための活動」を行っている。
ITツールの導入からWebサイト運用まで、中小企業のIT周りを全面的に支援する。