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経営層へのデジタルマーケティングに関する提案資料の作り方

公開日:2024/02/09

溝呂木聰(みぞろき・さとし)

デジタルマーケティングに興味はあるけれど、まだ取り組んでいない中⼩企業が多いのが現状です。その理由の⼀つとして、経営層がデジタルマーケティングをわかりづらいと感じており、実施や改善に踏み切れないでいることが挙げられます。また、デジタルマーケティングに対して、漠然とした不安や疑問を抱いていることもあります。
デジタルマーケティングに取り組むにあたって、社内での検討や手順について悩むことも多いでしょう。そこで、今回は、デジタルマーケティングの提案資料の作り方について、初心者向けにご紹介します。

提案の流れ

デジタルマーケティング導入に際して、一般的には経営者が不安や疑問に感じていることが多いでしょう。それらを取り除くためには、どのくらいの予算をかけるべきか、どのような効果が期待できるのか、どのようなリスクがあるのか、などの課題を明確にして提案を構築することが大切です。

例えば、以下のような流れが考えられます。

1.現状もしくは直近の戦略や方針に沿っていることを示し、経営陣の関心をひく
2.具体的な目標数値とそのためのアウトラインを示して、さらに関心をひく
3.実施内容について、他社事例などをもとに理解を得る
4.費用も含んだ社内リソースをクリアにして、実現性を示す
5.リスクや懸念事項について検討課題と対策案を挙げて、信頼と安心を得る

それぞれについて見ていきます。

1.現状の戦略・方針に沿っているか

施策については、戦術にあたるため、その上位である戦略に合致していることが重要です。合致度合いが高ければ経営陣は関心を示す可能性が高いでしょう。
販路開拓を戦略にしている場合、新規顧客獲得、既存顧客の維持・拡張、市場シェアの拡大などの戦術があるかと思います。例えば、今期の戦略や方針として新規顧客獲得を目指している場合、デジタルマーケティング施策として、潜在顧客のメールアドレスを集めてフォローアップしていくなどの方法が考えられます。

デジタルマーケティングでの施策は、社長や経営陣が直近で話していることと合致しているかどうかも確認しておきましょう。費用や人員・労力などの社内リソースについても、当期の課題に応じて調整する必要があります。例えば、コスト削減が最優先の場合は、費用がかかる広告などの施策よりも、会社アカウントのSNS開設・発信など無料で行える施策を優先して実施するなどの配慮が必要です。
また、提案が会社全体の課題を解決するという流れになっていると、より納得感が高まります。デジタルマーケティング施策に反対している経営者でも、重要な課題を解決できるという提案であれば、内容を確認したくなるはずです。

2.具体的な目標数値とそのためのアウトライン

戦略に紐づいた内容で、目標を数値化して、提案のゴールやKPIなどを明確にします。ただし、全社的な視点としても魅力的な数値を目指すこと、とはいえ非現実的ではない数値感が理想です。

例えば、会社全体の目標が100人の新規顧客獲得であるとしたら、デジタルマーケティング施策だけでそれを達成するのは難しいでしょう。しかし、他の施策と連携して10人の新規顧客獲得に貢献するという目標設定なら、経営者の関心を引くことができます。また、新規顧客獲得以外の戦略・指標というケースは、既存顧客の継続率や市場シェアの向上、社内工数の削減など、公開されている他社事例など外部からの参考数値とその根拠も示せれば、同じように関心を引くことができるでしょう。

デジタルマーケティングは、他の施策よりも数値化しやすいことが特長になりますので、そのメリットを最大限に活用しましょう。

3.実施内容と他社事例

実施内容については、手法をわかりやすく説明して理解を得ることが重要です。経営層は、デジタルマーケティングに関する知見がなくわかりづらいと感じていることが多いです。そのため、提案の内容や手法を説明するときには、専門用語や難解な表現を避けて、簡潔で平易な言葉で説明することが大切です。例えば、「SEOとは、検索エンジンで上位に表示されるように、ウェブサイトの内容や構造を改善することです。SEOを行うことで、ウェブサイトへのアクセス数や問い合わせ数を増やすことができます。」といった具合に、定義やメリットを示したり、イメージしやすくすることが重要です。

実際の端末画面を示して説明したり、図解をすると、急に経営者のインスピレーションが刺激されて、一気に理解が得られたり、さらに追加の施策を求められるなど前進することもあります。

また、同じ業界で、実際に取り組んでいるデジタルマーケティングを事例として公開しているケースも多いため、そちらも活用しましょう。完全に同じ施策ジャンルでなくてもよいでしょうし、業界内で類似の事例が見当たらない場合は、他業界で似たような施策を行っているものを参考にしましょう。同業界で事例がない場合は、むしろ先駆けとなるチャンスであると提案するのもよいかもしれません。

4.社内リソース

新たにデジタルマーケティング施策を実施する場合に、いくら費用をかけ、どれだけ労力をかけるのが適切なのかわからないというのはよくある悩みですので、実現性を示しましょう。

自社での販促費用の売上比率の目安がある場合は、それに応じつつ、目安がない場合は、一般的には10%〜20%と言われることが多いので参考に設定します。
例えば、売上100万円を目指す場合、どのくらいの費用をかけて、どれだけの問い合わせ数やクリック数が必要かを計算してみます。例えば自社サイトでの月間の平均来訪者数200、問い合わせ2件でそこからの平均受注1件で受注の平均売上50万円となる場合、売上が100万円獲得のためには、受注2件、問い合わせは4件、来訪者400が必要となります。実際に実行するとその数値や率が変わることは当然ありますが、費用対効果をはっきりさせれば、実行しやすくなります。
また、予算に上限がある場合もあります。例えば30万円しかかけられないという場合には、その範囲で最も効果的な施策を選んで、検討していくことになります。

さらに、新しい施策を始めるには、社内の人員や時間をどのように確保するかということも課題です。これは費用と同じく、後で基準を決めていくことになりますが、デジタルマーケティングの特長は、小規模で始められることです。できるだけ、効果が見込めるものから始めるようにしましょう。

5.リスクや懸念事項

新しい施策に対しては、デジタルマーケティングに限らずリスクは起こりえますし、経営層は不安や疑問があることが多いです。そのため、リスクも具体化して、洗い出しておきましょう。また、挙がってきそうな反対意見があれば、回答案を作っておきたいところです。

デジタルマーケティングは、検索されたり露出が増えることが多いため、自社の情報を新規顧客に知ってもらいやすくなりますが、競合や既存顧客に見られるようになります。競合に知られると困る機密情報等はもちろん、新規顧客向けのみのキャンペーンなど、既存顧客へフォローが必要だったり、整合性が取れなくなるケースなども考慮しておきましょう。
また、当初の設定のキーワード群での広告で効果が見えなかった場合、途中で中断し、用意しておいた別のキーワード群に差し替えるなど、うまくいかなかった場合の方法について、ある程度想定しておきましょう。

なお、万が一失敗しても、その経験が無駄にならないかどうかも事前に考えておきましょう。例えば、社内の人材のスキルアップに役立ったり、テストマーケティングとして、他の営業やマーケティング施策に応用できたりすることもあります。

最後に

新たな施策を展開するにあたって、該当の施策だけでなく、その先の展望や全体のストーリーも示すことが大切です。 例えば、Web広告において検索連動型(リスティング)広告で新規顧客を獲得できたら、次のステップとしてディスプレイ(バナー)広告でアプローチを強化したり、ターゲットを拡大したりすることができます。もしくは、当初は代理店に任せていた運用も、自社の強みを活かすために2年後には社内でできるようにし、組織的に取り組むことで、さらに多様な戦術を実行できるようになるでしょう。

経営者は、現状の課題に対応することはもちろんですが、数年後やさらに先のビジョンも持っているはずです。将来に向けた展望とストーリーがあれば、ビジョンに沿った提案はもちろん、ビジョンを補完するような提案でも、期待と興味を持っていただけるはずです。ぜひ、将来性のある提案を作成・実行してみてください。

コラムニストプロフィール

溝呂木 聰(みぞろき・さとし)

中小企業診断士、経営革新等支援機関。
早稲田大学卒業後、通信教育会社、飲食ポータルサイト、不動産メディアにて宣伝・マーケティングや経営に従事し、2021年独立。東京都・神奈川県の公的機関などを通じて、中小企業支援を行っている。
「Webマーケティングと経営戦略は良い相性」と考え、それらを組み合わせた伴走を心がけている。
https://compuro.jp/