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「好み」や「感覚」で失敗しないためのデザイン判断基準

公開日:2026/06/10

福岡由佳

デザインの話になると、いつの間にか「好み」で決めてしまう

デザインを制作したり、外部に依頼したりする際、いつの間にか個人の好みで方向性を決めてしまうことはないでしょうか。

まずは色やフォントをどうしようか、競合他社のあの素敵なデザインのような雰囲気にしたいと、イメージを膨らませることから始めてしまうことが多いかもしれません。この色が好き、この雰囲気が自社らしいと考えること自体は、自社の事業に愛着があるからこそであり、とても自然なことです。ただ、少し気をつけたいのは、その直感的な好みが、そのまま最終的な決定理由になってしまう危険性です。

デザインの目的

デザインは、事業を前に進めるための大切なビジネスツールです。ご自身の好みを表現するアート作品ではないからこそ、自分が好きかどうかという基準で選び始めてしまうと、知らず知らずのうちにデザインが本来の集客や信頼獲得という目的からずれていってしまいます。

特に経営者や担当者の方は、自社の商品やサービスに強い思い入れがあるため、どうしても自分が良く思うものや、かっこいいと思うものを選びたくなる傾向があります。しかし、その制作物を目にするのは、あなたの会社をまだよく知らない他人なのです。

その他人に対して、自分や身内だけに通じる感覚を押し付けても、共感は得られません。自分たちがどう見せたいかという視点から、「相手がどう受け取るか」へ。主語を自分から顧客に切り替えることが、デザインの成功率を高めます。

自分の好みに引っ張られず、本当に機能する良いデザインを作るためには、どこを見て、どう判断すればよいのでしょうか。この記事では、デザイン初級者の方でもすぐに実践できる具体的な判断基準をお伝えします。

デザインの役割とは何か

では一体何を基準にデザインを判断し、決定していけばいいのでしょうか。その答えは、個人のセンスの中にあるのではなく、自社をどのような性格の会社として認識させたいかという視点からの逆算にあります。

お客様は決して、あなたの会社のデザインセンスを評価しに来ているわけではありません。彼らは限られた時間の中で、自分の悩みを解決してくれるか、この会社が信頼して任せられる相手かを一生懸命探しています。だからこそ、デザインとしての色や形にはすべて、お客様にそう感じてもらうための明確な理由が必要なのです。

制作ツールを開く前に設計図をつくろう

いざ自分でデザインを作ろうと思ったとき、いきなりデザイン作成ソフトを開いて、レイアウト上に文字や写真を置き始めるのはおすすめしません。土台となる明確な基準がないまま作業を始めてしまうと、途中で何が正解か分からなくなり、結局は自分自身の好きか嫌いかという好みに頼って制作を進めることになってしまうからです。

パソコンに向かう前に、まずは白い紙とペンを用意()して、少なくとも次のことは必ず自社の言葉で整理し、書き出しておきましょう。(デジタルツールで代用しても構いません)

  • このデザインは、具体的に誰に向けたものなのか。
  • そのターゲットとなる人に、見た瞬間にどんな感情を抱いてほしいのか。
  • 最後まで目を通した後、最終的に何を判断してどんな行動を起こしてほしいのか。
  • 競合他社にはない、ここだけは絶対に譲れない自社の強みは何か。

この土台となる設計図があって初めて、具体的なデザインを決めていくことができます。例えば、「ターゲット層に信頼感を出し、自社の強みを的確に伝えるために、メインカラーは落ち着いた青色にして、文字は明朝体にし、余白を広めにとったレイアウトにしよう」といった、理由のあるデザイン選びができるのです。

逆にここが曖昧で整理されていなければ、頼るべき軸がないため、作業を進めるうちにどんどん目的を見失ってしまいます。良いデザインを作るためのヒントは、自社のビジネスの目的とお客様への理解の中にあります。まずはしっかりと自社の事業を見つめ直し、言葉で整理する時間を取ってみてください。

色・フォント・ボタンの形を決めよう

設計図が決まったら、具体的に自社に合う色や文字を決めていきます。デザインの方向性を決めるために、まずは自社の性格を2〜3つの言葉に絞り込んでみてください。親しみやすくて元気な会社なのか、真面目で堅実な会社なのか、それとも高級感や特別感を提供する会社なのか。この性格設定が、色や文字を選ぶための基準になります。

色の選び方

色を選ぶときは、その性格を表現するメインカラーを一つ選びます。もし親しみやすさや元気さをアピールしたいなら、オレンジや黄色などの暖色を選びます。誠実さや信頼感、専門性の高さを伝えたいなら、青や紺色を選びます。女性らしい優しさや安心感ならピンクや淡いベージュ、自然や健康、エコなイメージなら緑色。高単価な商品や特別感を売りにするなら黒やゴールドといった具合です。

フォントの選び方

文字の形であるフォントを選ぶときも同じように性格から逆算します。 フォントは大きく分けて、筆の払いが残るような明朝体と、線の太さが均一なゴシック体の二種類があります。高級感、伝統、真面目さ、大人っぽさを伝えたいなら明朝体を選びます。老舗のサービスや、じっくりと読ませたい誠実なメッセージに向いています。 一方、親しみやすさ、現代的、元気、カジュアルさを伝えたいならゴシック体を選びます。一般的なサービスや、パッと見てすぐに情報を伝えたい場合に向いています。さらに子供向けや優しい雰囲気を出したい場合は、文字の端が丸みを帯びた丸ゴシック体を選ぶと効果的です。

ボタンの形を決める

さらにお問い合わせボタンや写真を囲む枠などの図形の形も決めましょう。 角が丸い図形を使えば、優しさ、親しみやすさ、柔軟性を感じさせます。角が尖った四角い図形を使えば、規律、正確性、堅実さを伝えます。

このように、誠実で頼りになる会社だと感じてほしいから、色は紺色、文字は明朝体、ボタンは四角にしよう、と論理的に順番に決めていくことができます。これが、自分自身の好みではなく、理由を持ってデザインを決めるということです。

<ポイント>

色選びに迷ったら、インターネットで「色の印象」「色が持つイメージ」「カラーイメージ」などと検索してみてください。ヒントがあると思います。

洗練されたデザインを作る5つの基本ルール

色や文字の方向性が決まった後、実際に文字や写真を配置していく際、どうすれば自社らしいデザインを作れるのでしょうか。個人のセンスに頼らず、誰でもプロのような仕上がりにするための具体的な5つの基本ルールをお伝えします。

ルール1 使う色を絞り込む

1つ目のルールは、使う色を3つまでに絞り込むことです。 初心者が最も陥りやすい失敗は、制作物の中に何種類もの色を使ってカラフルにしすぎてしまうことです。色が多すぎると全体がごちゃごちゃしてしまい、一番伝えたいことが埋もれてしまいます。カラフルなデザインは意外と難しいのです。

デザインをまとめるためには、背景となる色、会社のイメージを伝える主役の色、そして目立たせたい部分に使う色の3つだけをあらかじめ決めておき、それ以外の色は原則として使わないようにルール化してみてください。これだけで統一感が生まれ、一気に洗練された印象になります。

ルール2 見えない線を意識する

2つ目のルールは、見えない線を意識してきっちりと揃えることです。 文字の始まりの位置、写真の左端など、あらゆる要素を、左揃えや中央揃えといった規則に従って配置します。少しでもガタガタとズレていると、それだけでお客様に雑な会社だという印象を与えてしまいます。レイアウト上に透明な縦線と横線が引かれていると想像し、その線に沿ってブロックを積み上げるように配置していくと、整ったデザインになります。

ルール3 情報の優先順位をつける

3つ目のルールは、情報の優先順位をつけて文字の大きさに差をつけることです。 すべてが同じ大きさの文字だと、見る人はどこから読めばいいのか迷ってしまい、結果として何も読んでくれません。一番伝えたいキャッチコピーや見出しは大きく太くし、その下にある補足の説明文は小さく細くする。この文字の大きさや太さの差をしっかりとつけることで、視線を自然に誘導し、読ませたい順番で情報を届けることができるようになります。

これもデザインなの?と思われるかもしれませんが、視線の誘導や読ませたい順番を意識することもデザインの一部です。

ルール4 情報をグループ化する

4つ目のルールは、関連する情報を近づけてグループを作ることです。 写真とその説明文、商品の名前と価格など、セットになって読まれるべき情報は距離を近づけます。逆に、別の項目の情報との間には広い隙間を空けます。人間は近くにあるもの同士をひとつのかたまりとして認識する性質があるため、線で囲んだり色を変えたりしなくても、距離を近づけるだけで情報のまとまりが視覚的に伝わり、スッと頭に入ってくるようになります。

デザインをしていて「線が多くてごちゃごちゃしているな」「背景に色を入れたけど違和感があるな」と思ったら、その線や背景色をなくし、グループ化を意識して配置してみてください。

ルール5 余白を制する

5つ目のルールは、余白をたっぷりと恐れずに取ることです。 自分でデザインをしていると、どうしても空きスペースがもったいなく感じてしまい、文字や写真を端から端までぎっしりと詰め込んでしまいがちです。しかし、情報の周りに何もない空間、つまり余白があるからこそ、その情報が引き立って読みやすくなるのです。行と行の間や、写真と文字の間には、自分が思っているよりも少し広めに意図的な空間を取ることを意識してみてください。余白は単なる隙間ではなく、情報を読みやすくするための最も重要なデザインパーツです。

これら5つのルールを守りながら構成していけば、特別な才能や経験がなくても、お客様にとって見やすく、信頼されるデザインを作ることができます。

他社のデザインをそのまま真似してはいけない理由

デザインの方向性に迷ったとき、競合他社の事例を調べて参考にすることはよくあるアプローチです。とりあえず同業他社のかっこいいデザインを真似しようと考える方も多いですが、表面的な見た目だけを真似してもうまくいきません。

なぜなら、私たちに見えているのは、あくまで完成した見た目という表面的な結果であり、その裏側に存在するどんなお客様を狙っているのか、他社とどう差別化しようとしているのかといったデザインの意図が見えていないからです。

たとえば、競合のあの会社が非常に派手な黄色と黒を使ったインパクトのあるデザインで成功しているとします。それを見たあなたは、黄色が目立っていいんだな、うちも真似しようと考えるかもしれません。 しかし、その会社が黄色を使っている本当の理由は、業界最安値を武器にしており、価格の安さや手軽さをアピールしたいからかもしれません。もし、あなたの会社が価格競争ではなく品質の高さや手厚いサポートを売りにしているにもかかわらず、競合の目立つ黄色だけを表面上で真似してしまえば、自社が築き上げたいブランドイメージは崩れてしまいます。

また、他社のデザインが必ずしも成功しているとは限らないという点も忘れてはいけません。もしかすると、その競合他社も、担当者の好みだけで作ってしまい、全く反応が得られない失敗デザインを世に出しているかもしれないのです。それを安易に真似することは、他人の失敗をわざわざ自社に取り入れるような行為です。

事業の条件や狙うターゲットが違えば、正解となるデザインが違って当然なのです。他社の事例を見る時は、この色いいなという見た目の感想ではなく、なぜこの会社はあえてこの色とレイアウトにしたのだろうかという裏側の意図を想像するくせをつけてみてください。

おわりに:デザインの本質とは

デザインは、決してセンスの良し悪しを競うアートコンテストではありません。あくまで、自社の事業の素晴らしい価値や強みを、お客様が誤解することなくスムーズに受け取れる形に整える翻訳作業のようなものです。

ご自身の好きという感覚だけで決めない。他社がやっているからという理由だけで安心しない。本当に必要なのは、自社はこういう性格の会社であり、お客様にどう感じてほしいのかを定義する力です。

  • このデザインは、うちの会社らしいか。
  • この見た目で、お客様は違和感を抱かず、期待通りの感情になってくれるだろうか。

この2つの問いに対してイエスと言えるなら、それがどんなにシンプルな見た目であっても、あなたの会社にとっての最高のデザインです。

コラムニストプロフィール

上級SNSマネージャー ITコーディネータ 管理会計コンサルタント

福岡 由佳(ふくおか・ゆか)

短大卒業後、都市銀行、商社系証券会社、投資顧問会社を経てリーマンショックを機にキャリアチェンジ。2013年にホームページ制作業として開業後、中小企業の戦略立案、マーケティング支援、営業支援へと領域を拡大。2025年に株式会社SHI-KOUを設立し法人化。

得意とするのは「対話を重視した伴走支援」。デジタルマーケティングの施策実行において、事業者との対話を通じて目標を整理し、KPI管理をしながら並走していくことを大切にしている。戦略設計から施策の実行、ホームページ改修まで一貫して対応できることが強み。
https://shi-kou.works/