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デジタルマーケティングで成果を出すために~魔法の杖ではけしてない 前編

公開日:2025/07/24

最終更新日:2025/07/23

坂本義和

はじめに

中小企業においてもデジタルマーケティングへの積極的な取組が増えています。チラシや看板、雑誌広告などのリアルな販促、プロモーション手段だけでなく、Webサイト、SNS、メールでの情報発信や、Web広告などをつかった販促などのデジタルマーケティングは中小企業にとっても大きな武器になります。

しかし、「デジタルマーケティングを始めればすぐに売上が上がる」「少ないコストで大きなリターンが得られる」「はじめさえすればお客様が増える」といった、少しだけ「誤った」期待を抱く方も少なくありません。

残念ながらデジタルマーケティングは「魔法の杖」のようにすぐに効果が出る、簡単に売上が上がるといったものではありません。
中小企業においては、大企業のような潤沢な資産(特にお金・人)があるわけではありません。過度な期待をせず、自社ならではの地道な努力を続ける必要があります。地道な努力を続けた先に、確実に成果がでるわけではありませんが、少なくとも成果を出すために地道な努力は必要なことです。

本稿では、デジタルマーケティングに長く関わってきた経験をもとに、実際に効果が出るまでの実態と、本格的に取り組む前の陥りがちな誤解を解説し、実際にどのように取り組めばいいのかについてお伝えいたします。

デジタルマーケティングに関する一般的な誤解

誤解1:始めれば結果や成果が出る

デジタルマーケティングにおける大きな誤解の一つは、「始めればすぐに効果があらわれる」といったものです。
デジタルマーケティングの取り組みは、即効性のあるものではありません。

例えば、SEO(検索エンジン最適化)対策を行って、コンテンツの上位表示を狙ったとしましょう。
サイトの構造や導線を改善し、質の高いコンテンツを作成しても、検索エンジンで順位を向上させるには通常3〜6ヶ月以上かかることが一般的です。Google等の検索エンジンによって、作成した新しいコンテンツが認識され、ユーザーに役に立つ情報が届き、結果的に検索エンジン上での評価を得るまでには時間を要します。公開してすぐに上位表示されるのではなく、少しずつアクセスを集め、ユーザーの役に立ち、少しずつ評価が上がっていくものです。
このようなお話をすると、半年もかかるのか、と取組を諦めてしまう会社さんも少なくありません。

他にもSNSの運用についても同様です。アカウントのフォロワーを増やしつつ、投稿した内容をみてもらう。内容やアカウントについて好意的な評価を得ていく。ユーザーが求めている質の高いコンテンツを投稿し続けることと、フォロワーとの丁寧なコミュニケーション(コメントへの返信・ダイレクトメッセージでのやりとりなど)を続けるなど、継続的な取組が必要になります。

そもそも、Webサイトも、SNSも始めただけでは「誰も知らない住所にある店舗」のようなもの。知ってもらうことだけでそれなりの時間がかかります。
世の中にある、成功したといわれる事例をみると、〇〇人フォロワーが増えたというような華々しい成果がでてきますが、これも経験上「たまたま」うまくいったか(その企業だからうまくいっただけの可能性が高く自社での再現性が低い)、先行者利益でうまくいったか(あるジャンルや今までにない訴求だったのでうまくいったので二番煎じが難しい)など、はやく成果が出た背景にはそれなりの理由があります。
実際に運用してみるとわかりますが、例えば1ヶ月で1000人を超えるフォロワーを獲得できるケースはほぼなく、多くの場合はアカウントを育てる(フォロワーを増やし好意的な評価を得る)ためには数ヶ月から数年が必要になります。

誤解2:コストをかけずに成果が得られる

「デジタルマーケティングは従来の広告であるマスメディアの広告やリアル広告(チラシ・看板)よりも安価にはじめられるし、コストをおさえて続けることができ、成果が得られる」という意見もよくみられます。

確かにテレビCMや雑誌広告と比較すると初期コストは低い場合が多いですが、デジタルマーケティングで成果を出すためには「支出として見えにくい」ものも含めて以下のような様々なコストが発生します。

  • デジタルマーケティングの知識を持った人材の確保(雇用の場合の採用費、給与、福利厚生費など・外部に委託する場合の委託費)
    →これは特定分野だけでなく総合的な視野を持つ人材が求められるので、採用含めて探すためのコストもかかる
  • 質が高く継続的なコンテンツ制作(文章、画像、動画など)をする体制・仕組みの構築
  • Web広告の広告費実費
    →外部委託する場合は広告の代行費用
  • ツール(分析ツールで有名なGoogleAnalyticsは無料だが他のツールは費用がかかる)やプラットフォーム(基盤となるサイト、例えばネットショップの場合の楽天の利用料など)の使用料
  • データ分析を行った上での施策検討・改善のための時間と対応工数

取り組みのハードルや全体のコスト感の肌感覚としては、今までの販促手段よりは低いかもしれません。
ですが、現在、Web上では独自性のある取組が難しく、すぐ真似される可能性があるという観点でいえば競争が激化しています。そのため、単に「デジタルで発信する」だけでは、お客様から認知されたり、選ばれたりすることが難しくなっています。

確かに「低コストで始められる」のは間違っていない部分もあります。そして「広告を始めてみる」「SNSを始めてみる」ことは、これまでまったく取り組んで来なかった企業にとっては大きな第一歩ではあります。
ですが、そこから「売上」や「お問い合わせ」など業績へプラスの効果を得るためには、「低コスト」で、というわけにはいきません。

誤解3:誰でも簡単に始められて効果が得られる

現在様々なツールがあり、生成AIの発展によりコンテンツ制作を含めて、始めるハードルはだいぶ低くなったといえます。SNSアカウントの開設は、個人でやっている方も多いので、法人でも開設自体は社内人員で対応可能です。htmlやcssなど言語知識がなくても、簡単なWebサイトの構築ができるツールもあり、以前に比べたらはるかに容易になりました。

しかし、デジタルマーケティングで成果を出すためには、技術的なハードルをクリアするだけでなく、マーケティング戦略、消費者心理、データ分析など多岐にわたるスキルが必要です。
具体的には次のような専門知識が求められます。

  • ターゲット層の詳細な理解と適切な顧客像の仮説設定
  • 設定した顧客像がWeb上でどのような行動をとるのかの仮説設定
  • HP・SNSなどコンテンツを配置する場所の特性に合わせた戦略
  • Web広告の場合、広告文設定、配信の最適化、入札戦略などの詳細な設定
  • データに基づく仮説検証と改善、中間の目標指標の設定
  • フォームやECサイトにおける成約率を最適化するための改善

これらのスキルを習得するには時間と経験が必要であり、「誰でも簡単に」というわけにはいきません。

またこれらのスキルは日々アップデートしていかねばなりません。様々なツールがあるのは確かですが、そのツール自体が日々進化したり、Googleを始めとした外部環境も日々変化・進化していますので、継続的な知識の習得が必要になります。
簡単に始められるというのは確かな部分もありますが、それで効果が出るか、効果を出し続けられるかは別の問題です。

ここまで、デジタルマーケティングに関する代表的な誤解についてお伝えしてきました。 「すぐに効果が出る」「低コストで成果が得られる」「誰でも簡単にできる」。 そのような期待は、残念ながらデジタルマーケティング実践の現実とは大きくかけ離れています。しかし、これらの誤解があることを理解することで、デジタルマーケティングに対する適切な期待を持つことができるはず。

では、どのように取り組めば本当に成果を出すことができるのでしょうか。

実際の現場では何が起きているのかを次回のコラムでご紹介できればと思います。 長年の実践や、支援経験から見えてきた現実と、成功するための具体的なアプローチについてお伝えします。

コラムニストプロフィール

中小企業診断士

坂本 義和(さかもと・よしかず)

大学卒業後、すぐに起業。Web制作・マーケティング支援の会社を経営し、Web業界には20年以上関与。「経営に役に立つ」デジタルマーケティング支援を得意とする。活動の源泉は、よい商品・サービスが届けたい・届くべきお客さまに「知られていない」状態を世の中からなくすこと。