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本当に怖~い、ネット炎上のお話し

公開日:2023/12/18

原田隆治(はらだ・たかはる)

SNSを使った販売促進を推進する企業が中小企業でも非常に多くなっています。無料で、良質な見込顧客との関係性を築け、さらに自社では接触できなかった新たなターゲット層にもアプローチできるSNSは顧客ロイヤルティを高めるために非常に有効なツールと言えます。
しかし一方で気になるのがその拡散力の弊害、つまり「ネット炎上」です。このコラムではネット炎上とは何か、そのメカニズムや万一炎上してしまったときの対処方法、そして炎上を未然に防ぐための策を中心に紹介していきます。

ネット炎上とは何か?発生プロセスと投稿者の心理

皆さんが日ごろ見ているSNSで今まさに炎上中という投稿をリポストや引用するなどして自ら拡散したことがあるという人はいらっしゃいますか?恐らく、それほど多くはないのではないでしょうか。ネット炎上はニュースにはなりやすいのですが、炎上に加担したことがあるという人は、実は総務省の調査によるとわずか1.1%しかいないそうです。ところが、様々な形でのSNSの炎上は日々発生し、謝罪や広告の撤回など企業側のダメージも広がっています。そんなネット炎上とはそもそも何で、どうしてそのようなことが起こるのかご紹介します。

まず、企業にとってネット炎上とは、「自社の企業イメージが傷つき売上等に影響が出る可能性のあるネット上での騒動全て」と言えます。発端が誤解や言いがかり、濡れ衣であったとしても、事後対応の仕方も含め結果的にイメージダウンになってしまえば立派な炎上騒ぎです。いつどこで巻き込まれるとも限らないことは認識しておきましょう。

そして、なぜネット炎上が起こるかといえば、簡単には「炎上投稿があるから」と「それを拡散させる人がいるから」です。「炎上投稿」をしてしまうカラクリはいくつかあるのですが、よく言われるのが以下の心理的な側面です。

  • マジックミラー錯覚:発信者から受信者がよく見えていないので誰の目にも止まらないような気がして持論を展開してしまう
  • エコーチェンバー現象:ネット上では価値観の似た者同士が交流することが多いため、特定の意見や思想が増幅してそれが正しいと思い込んでしまう
  • 没個性化:Xなどで匿名発信をしていると個人の特定ができないだろうと考え大胆な主張ができてしまう

また、拡散する側の理由は一言でいえば正義感から来る「義憤」だと思います。「この投稿は間違っている、許せない」「この人(企業)には失望した、悪い状態になると良い」という思いがそうさせていて、実際に投稿によって傷つけられた人ではなく、そうでない人が「〇〇のような人が可哀そうだ」と騒いでいるケースが大半です。こうした義憤を誘発させない投稿を心がけることが重要となります。

ネット炎上に繋がりやすい投稿

続いて、あくまでも一例にすぎませんが、炎上に繋がるリスクのある投稿とはどのようなものか、ご紹介します。炎上投稿を防止するには、これをやれば完璧というセオリーなどはなく、いかに炎上に関する感度を上げ「あれ、これって大丈夫?」と未然に気付けるか、ということに尽きると思います。そのためにはまず、SNS担当者はもちろん、上長や社長も含め過去の炎上事例を多く知り、このくらいのことでも炎上してしまうんだ、と実例を把握しておくことが重要と考えます。年配の人こそ、差別とユーモアの境目が若い人とずれている可能性がありますので特に気を付けましょう。

以下は、炎上でよくあるパターンです。

①性的な投稿

特に、男性目線で女性を異性として扱うような投稿には注意が必要です。中でも対象が未成年の場合や、容姿や年齢に基づいたコメント、意味なく露出の多い画像等にも注意する必要があります。

②差別的な投稿

人種、宗教、ジェンダー(マイノリティ含む)、職業、学歴、地方など様々な差別がありますが、さすがに正面から堂々と差別を公言する投稿は少ないかと思います。ただ、短い文章の中に少しだけ垣間見えてしまう差別的な意識が炎上対象になることもありますので細心の注意が必要です。ウケを狙ったコメントのつもりがちょっとした差別意識がいつの間にか入り込んでしまうこともありますので、気を付けましょう。

③ステレオタイプな価値観による投稿

A型は几帳面、外科医は男性で看護師は女性、日本人は真面目でメガネをかけている…等古い固定観念的な価値観に基づく投稿も炎上のリスクがあります。こうした価値観は差別と同様無意識のうちに自然に出てしまうため意識して注意する必要があります。例えば、「おたく男子」をイラストにしようとしたとき、今あなたはどんな絵を思い浮かべましたか?それもステレオタイプな価値観の1つかもしれません。

④犯罪や迷惑行為を思わせる投稿

回転寿司店での迷惑行為の投稿などは言語道断ですが、そうしたレベルでなくとも投稿を見た人の類推から炎上するケースもあります。以前、ある企業が街角で通行人を撮影した動画をHPでアップしましたが、通行人がみな迷惑そうな表情を浮かべているため、撮影が通行妨害になり通行人に迷惑をかけていたのではないかと炎上した騒動がありました。実際の撮影がどうだったのか分かりませんが、こうした騒動から動画は全て削除されました。

⑤近年話題になりがちな社会問題を思わせる

社会問題として取り上げられることが多いテーマを連想させる投稿は、拡散の波に乗りやすく批判を浴びがちですので注意が必要です。性被害、闇バイト、いじめ、ワンオペ育児、パワハラ・カスハラ・マタハラ、迷惑運転、長時間労働、虐待など社会的に「悪」として扱われるワードが投稿にくっつくと話題性が出て拡散に乗りやすくなります。

こうした炎上リスクをしっかりグリップした上で、SNSの良さを活かしながら発信を行っていきましょう。

ネット炎上が起きてしまったら?

仮定の話ですが、気を付けて投稿していたつもりが、少し奇をてらった発信をしてしまったところ炎上してしまいました!さて、そうした場合どのようにして収束を図っていくことが必要でしょうか。企業として行う基本的なスタンスについてお伝えします。

①謝罪の必要があるか、説明の必要があるか、無視で良いか

最初に社内で検討すべきことは、「謝罪」か「説明」か「無視」かを決めることです。このように書くと簡単なように見えますが、この方針決定がもっとも重要でそして間違ってしまうと深刻な事態を招くため慎重な判断が求められます。では、どのようなケースの場合それぞれを選択することになるか、見ていきます。

「謝罪」

完全に自分たちが悪い場合は即時謝罪の一択です。炎上が発生したのと同じSNSアカウントから謝罪の投稿を行い、自社のHPでも「一連のSNSでの騒動について」などとしてお知らせ欄などを使って謝罪文を掲載する必要があります。

「説明」

騒動が完全に誤解や誤報に基づくと断定できる場合は、即時説明をすることが必要です。説明をしないことは誤解や誤報を黙認することとなり、更なる拡散を煽ることとなりますので、毅然とした態度で、そしてあまりに炎上が悪質な場合には相談の上、顧問弁護士の名前も使い無実を訴えることが必要です。

「無視」

炎上騒動による指摘内容が常識的に考えてあまりにも稚拙なこじつけというケースも中にはあります。その場合は、ネット上のコメントについてもよく確認し、企業擁護・炎上側批判のものが多く含まれるようであれば何も対応しないというスタンスも選択肢の1つです。

②投稿は削除しない

炎上するとパニックになって投稿を削除してしまうケースがありますが、これは逆効果になる可能性があるためNGです。炎上加担者からすると、企業が自分たちに恐れをなして逃げたと考え、更なる義憤に火をつけることになりかねません。投稿は消えても画面のスクリーンショットを残している炎上加担者もいますので、その画像を使い炎上が更に広がることとなります。

③謝罪するときの注意点

謝罪で気を付けないといけないことは、「誰に」「何を」謝罪するのか、ということです。誰に、とはネット上で怒っている人に対してとは限らず、直接不快な思い・悲しい思いをさせた人が想定されるのであれば、そちらの方への謝罪を行います。

そして、謝罪で使ってはいけない言葉というものもあります。これはリアルでの謝罪会見などでも同様なのですが、主に以下のようなものがあります。
「誤解を与えることとなってしまい」:これは、受け手のあなた達が勝手に誤解したからだと、責任を転嫁していると捉えられます。
「傷ついた人がいたとすれば」:そんな人いないんじゃないか、という思いが垣間見えてしまい本心から謝罪していないと捉えられます。
「説明が不十分でした」:本質的な思想の誤りを謝罪するのではなく、うわべの表現方法のみを反省しているように捉えられます。

以前、ある企業が炎上騒動に際し「皆様に、ご不快な思いを感じさせる企画内容でありましたことを、深くお詫び申し上げます。」とHP上でお詫びして、再炎上してしまったこともありました。なぜこの謝罪の仕方で失敗したか分かりますか?再炎上で噴出した声は、「企画内容が悪いとお詫びするのではなく、その認識や配慮に欠けていた企業姿勢をお詫びすべきだ」という意見でした。まあ、なかなか細かいところを突いてくるなという気もしないでもないですが、確かに一言「配慮が欠けていたため」と入れるだけで再炎上は防げたのかもしれません。謝罪の言葉はより注目度が高いため、一言一句精査して慎重に言葉を選ぶべきです。

会社としての炎上対応体制の構築

炎上が発生してから対応を考えるのでなく、事前に発生時の体制や対処方法を整備し、さらに未然に防ぐための対策を整えておく必要があります。以下に示すような体制整備をまずは検討してみましょう。

①就業規則・誓約書

社員はもちろんアルバイトであっても業務上知り得た機密情報や個人情報を勝手に公開したりSNS発信することは懲罰対象になること、そのことは退職後も有効であること、受けた損害によっては賠償請求もあること、などを自社の従業員と約束を交わし、従業員の個人アカウント発信による自社の炎上防止を図ります。過去に、飲食店店員や不動産会社員、銀行員などからの個人発信で、勤務する店舗へ来店した著名人の個人情報を公開し炎上した事例もありますので、釘を刺しておきましょう。

②炎上発生時の一次対応

万一炎上を誰かが見つけた場合、どんな情報をどんな手段で誰から誰に報告するのかをつぶさに決めておく必要があります。ここで重要なことは、とにかくスピードを重視するということです。また、企業アカウントだけでなく、個人アカウントでの炎上であっても巡り巡って勤務している企業に矛先が向くことも十分あり得ますので、そうしたケースでも同様の対応が必要です。

③運用ポリシーの策定

SNSの運用ポリシーは必ず作成しておく必要があります。内容については、「SNS発信の意味や目的」「投稿作業方法のルール」「投稿の際の使用機器のルール」「投稿内容のNGジャンルとチェック体制」「アカウント運用に関するフォローやリポストなどのルール」「トラブル発生時の報告ルール(上記②で決めたことも盛り込みます)」などを含めます。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
SNS投稿における炎上の危険性を認識した上で十分留意しつつ、楽しみながら日々のSNS発信を活性化いただければ幸いです。

コラムニストプロフィール

原田隆治(はらだ・たかはる)

中小企業診断士。ダイレクトマーケティングに強い大手出版社にて25年、通信販売(カタログ・Eコマース)事業やマーケティング活動に従事。TVCMやLINEなどSNSの企画、新規事業開発、スマートホンアプリ開発、読者イベント開催など歴任。現在は中小企業の販促、営業等を中心とした支援を行っている。