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種まきで終わらせない!成果を実らせる“外部パートナー活用術”

公開日:2025/12/24

石井里幸

無料支援のその先へ

近年、企業の成長において、デジタルマーケティングの重要性が増しています。このコラムの読者の多くの事業者も、公的機関の無料専門家支援制度などを活用して最初の一歩を踏み出していることでしょう。これはデジタルマーケティングにおける【種まき】となる、事業の飛躍につながる大きな一歩です。

しかし、公的機関で受けられる支援制度の多くは、単発的で期間が限定されています。私は公的支援の専門家として多くの事業者を支援してきました。もちろん、多くの事業者は支援終了後も取り組みを継続し、収益性が向上するなどの成功を収めています。
その一方で、残念ながら支援後に取り組みを途中で諦めてしまった、という事業者もいらっしゃいます。

【種まき】を終え、その果実を実らせるにはPDCA(計画、施策実行、検証、改善)サイクルを長期間にわたって粘り強く回し続けることが求められます。ここに小規模事業者がなかなか超えられない壁が存在すると考えています。この壁を超えるため、“外部パートナー”の活用を検討する道があります。
※外部パートナーとは、デジタルマーケティングを支援する、専門スキルを持つ事業者のことです。(以下:パートナー)

当然、リソースの限られる小規模な事業者にとってパートナーを活用することはコスト増につながる難しい判断です。一方で単なるコスト増ではなく、むしろコスト削減につながる一面があることも理解しておきましょう。

本コラムでは、無料支援などの【種まき】を終えたものの、なかなか成果に結びつかずお困りの事業者向けに、パートナーを活用することで活路が見いだせるのか否か。その判断に役立つ視点、そしてパートナーを「コスト」ではなく「投資」に変えるためのヒントをご紹介します。

1. デジタルマーケティングは「内製」だけでは失敗しやすい

事業の立ち上げ当初や小規模事業者にとって、デジタルマーケティングの内製化はコストを抑える上で重要な選択肢 です。しかし、そのすべてを内製化すること(完全内製化)は、結果的に金銭的なコストだけでなく、いくつかの「新たなリスク・課題」を生じさせ、失敗につながります。
まずはそのリスク・課題についてどのようなケースがあるのか、理解しておきましょう。

内製化によって生じる新たなリスク・課題

このように、完全内製化は「新たなリスク・課題」が生じてしまうことを理解しておきましょう。

このほか、デジタルマーケティングの現場担当者から、「上司の命令で仕方なく取り組んでいます」といった声を聞いたことがあります。このようにモチベーションが低い状態では成果を出すことは難しいでしょう。これもリスク・課題一つと言えるでしょう。

2. パートナーに任せるべき領域

デジタルマーケティングでは、具体的にどの領域をパートナーに任せるべきでしょうか。それは企業の業界や商材によっても異なりますが、以下の表で示される領域を参考に、検討してみてください。

パートナーに任せると効果的な領域

これらの領域は、特に高度な専門性を要するため、内製化を目指す場合であっても、初期段階ではパートナーの活用を優先的に考慮するべき領域といえるでしょう。しかし、外部パートナーへの投資を成果へと変えるためには、「良いパートナーとの出会い」が成功のカギとなります。

次章では、具体的なパートナーの探し方と、その付き合い方について詳しく見ていきます。

3. 良いパートナーの探し方

良いパートナーとは、自社に成果をもたらせる事業者です。しかし予算が限られる小規模事業者にとって、良いパートナーを探すのは難しいことです。しかもデジタルマーケティング支援を生業とする事業者は数多く存在します。その中からどうやって見つけたらよいのか、以下に具体的なアプローチを紹介します。

  1. 信頼できる人脈からの「紹介」
    同業者や経営者仲間などからの紹介は、ミスマッチが少なく信頼性が高い方法です。ただし良い仕事をする事業者は紹介や口コミだけで受注できることから営業を必要とせず、新規顧客の受注を断るケースがあります。それがこのアプローチの難しい点といえます。
  2. 出来の良い「競合・他社のWebサイト」からの逆引き
    これはWebサイト・LPやWeb広告などの公開されている領域に限られる探し方ですが、その制作を手掛けた事業者を探る方法です。「この会社のサイトはとても良い!」と思ったなら、その制作会社名を聞き出すという方法です。ただし、いきなり「制作会社を教えてもらえますか?」と問い合わせても怪しまれますので、まずはその会社の顧客になるなど「遠回り」が必要かもしれない点は、このアプローチの難しい点かもしれません。

上記1、2の方法であれば、「良いパートナー」と接触できる可能性が高いのですが、これらのアプローチは少し難易度が高いかもしれません。そこで、3つめの探し方として、「マッチング・プラットフォーム」による方法があります。

これはデジタルマーケティングの運用を発注したい企業と、受注したい企業をマッチングさせるサービスのことです。Googleなどの検索エンジンで「デジタルマーケティング マッチング」といったキーワード検索をすることで、このようなサービスがたくさんヒットします。ただ、プラットフォームに登録している事業者は玉石混交ですので、次に示すポイントを確認することで見極めます。

  • 自社と同業種・同規模の成功事例があるか?
    業界特有の商慣習や規制、ユーザー心理を理解しているかを確認します。支援事例が公開されていなくても、面談で「類似事例」を尋ねてみましょう。
  • 具体的な数値目標達成の事例があるか?
    「アクセス数が上がった」だけでなく、「CPAを20%改善した」「リード獲得数を3ヶ月で1.5倍にした」など、具体的なKPI(重要業績評価指標)の改善実績を聞きましょう。
  • 社内の連携・運用体制はどのようになっているか?
    Webサイト制作担当者、広告運用担当者、クリエイティブ制作担当者、データ分析担当者など、社内にどのような専門家が所属しているのか確認します。また、それらメンバーとスムーズに連携できる体制にあるかを確認します。
  • 競合分析ツールなどのプロ向けツールを導入しているか?
    唯一無二の商材を扱っていない限り、ほとんどの場合「競合他社分析」は必須です。デジタルマーケティングのプロであれば「競合分析ツール」を駆使し、有益な情報を提供してくれます。競合分析ツールの利用料は高額なので、導入しているパートナーを選びたいものです。

たとえ良いパートナーと出会えたとしても、注意すべき点があります。それは、自社の担当者として エース級(高いスキルを持つ者)が割り当てられないケースがあるということです。

言いにくいことですが、小規模事業者は重要顧客としてみられない傾向があります。その場合、スキルの低い者や知識の乏しい新人が担当者として施策の実行にあたることになります。上記の見極めポイントで提示した「社内の連携・運用体制はどのようになっているか?」で示した通り、エース級との連携がとれる体制であることは確認しておきたいものです。

とはいえ、パートナーも利益を追求する事業者である以上、このような傾向がみられるのはやむを得ないことなのでしょう。そこで、次章ではパートナーと上手に付き合う方法を示します。

4. パートナーと「共に成長する」関係を構築する

パートナーと上手に付き合うコツは、「パートナー側のメリットを考える」ことです。パートナーも事業者ですから、事業拡大をして成長していくことを(多くの場合)望んでいるはずです。そして、成長するためにさらなる集客を考えています。

パートナーは集客のために、豊富な支援実績と成功事例を求めています。これらは顧客がパートナーを選ぶうえで、最も重視するものだからです。そのため、パートナーに対して「支援で成果を出してくれたら当社の社名を使って、その実績を公開してもらっても構わない」という話を持ち掛けてみるのも一案です。(この提案が奏功すれば、エース級担当者の協力が得やすくなるでしょう)

実際に、このような提案を持ち掛けることでパートナーと良い関係構築ができた事例を紹介します。

製造業を営むA社は、Webサイトでの集客に悩んでいました。掲載情報が少なく、アクセス数も少ないため、思い切ってリニューアルすることにしました。そこで、マッチング・プラットフォームで見つけた制作会社に、サイトリニューアルを依頼。

サイトは完成後、A社は契約を終了するのではなく、その制作会社に“運用支援”も継続して依頼するという決断をしました。それにより毎月、競合分析ツールを使ったレポート提供と、その分析に基づいたコンテンツ制作案が示されるようになりました。
一例をあげると、次のような提案がされたのです。

1. 競合Z社は「〇〇導入 失敗事例」というキーワードで大量のアクセスを得ているが、自社サイトではそのトピックのコンテンツが存在しないことを発見
2. 制作会社は、競合のコンテンツよりも専門的な内容の記事の作成を提案

この提案にもとづき記事を作成したところ、検索エンジン経由でのサイト流入が25%増加した。

この成功のカギは、「Webサイトの制作」という一時的な関係で終わらせず、「運用」という長期的な関係に移行したことにあるといっていいでしょう。特に重要だったのは、制作会社はA社のデジタルマーケティング担当者に対し、コンテンツ制作だけでなくレポートの見方などのノウハウ移転の指導が行われた点です。

これにより、A社のデジタルマーケティングの担当者は自ら“効果的なコンテンツ制作”を行えるようになり、数か月後にはアクセス数が安定的に増加し、Webサイト経由での成約率向上という明確な成功につながりました。自社にノウハウが蓄積されることは、会社の資産となり、事業拡大の速度に合わせて増員した場合にもスキルのキャッチアップをさせやすいなどのメリットがあります。

そしてその成果事例は制作会社のWebサイトにも社名付きで掲載され、制作会社の集客アップにもつながったということです。

パートナーとWin-Winの関係を構築できた事例といえるでしょう。

さいごに

小規模事業者にとって、デジタルマーケティングは完全内製化による運用は難しく、また、全てを外部に頼ることで達成されるものではありません。【種まき】を終えた後は、その“芽”が出るまで伴走してくれる“良いパートナー”と出会うことが理想的だと考えています。

今回、Webサイト制作の依頼を機に、運用という継続的な関係に踏み出す判断が、デジタルマーケティングの早期の成果につながったという事例を紹介しました。

パートナーと良い関係を構築できさえすれば、自社の成長を加速させる「投資」になります。あなたの会社が成長することでパートナーの「実績」となり、Win-Winの関係へとつながることにもなります。デジタルマーケティング成功までの道のりは険しいものですが、だからこそ共に歩んでくれるパートナーを見つけてほしいと考えています。

以上

コラムニストプロフィール

石井 里幸(いしい・さとゆき)

中小企業診断士、ITコーディネータ。
中小企業向けに「ITの便利さを実感してもらうための活動」を行っている。
ITツールの導入からWebサイト運用まで、中小企業のIT周りを全面的に支援する。