0. はじめに
多くの中小企業がブランディングに取り組んでみたいと考えています。しかし、実際にどう進めて良いのかわからず悩んでいるという話もよく聞きます。
実は、ブランディングによるメリットは、大企業よりも中小企業に大きいという部分もあります。この記事では、中小企業のためのブランディング、その中でもTVCMや新聞広告といった多額の広告費を必要とするものではなく、費用を抑えて効果を最大化するWebブランディングの活用についてお伝えしていきます。
1. Webブランディングの目的と重要性
Webブランディングとは、インターネット上で企業や製品のブランドイメージを構築・強化する活動のことです。
Webブランディングを行う主な目的は以下の通りです。
- 認知度の向上:多くの人にブランドを知ってもらう
- 信頼性の構築:顧客や取引先や関係者からの信頼を獲得する
- 差別化:競合他社との違いを明確にする
- 顧客獲得と維持:新規顧客の獲得と既存顧客の維持を図る
現代社会においてインターネットは情報収集や購買決定の中心的な役割を果たしています。ほとんどの消費者は、商品やサービスを選ぶ際、何かしらの形でWebを使っています。つまり、インターネットでの印象が、企業の成功を左右する大きな要素になっているケースが少なくありません。
多くの中小企業がデジタルマーケティングにおいて、SEO、魅力的なサイト制作やデジタル広告に取り組みますが、それとともに中小企業こそWebブランディングを行うべきなのです。
しかし実際には、Webブランディングに興味はあるものの、SEOやWeb広告デジタル広告と比べて、売上や利益に結びつきにくいと考えて、取り組みが始められない中小企業が多いのが現状です。さらに、Webブランディング始めようと思っても、進め方がわからないという人も少なくありません。
この2点について、以下の項目で解説していきます。
Webブランディングがもたらすメリット
まず「SEOやWeb広告と比べて、売上や利益に結びつきにくいのではないか」という質問に対してお答えします。そもそも、SEOやWeb広告とWebブランディングは、どちらを優先するか比較するものではありません。Webマーケティング全体を考えると、ブランディングを行うことで、SEOやWeb広告を含むWebマーケティング全体の効率が向上していきます。
以下、Webブランディングがもたらすメリットを記載します。
- 顧客ロイヤリティの向上
- 競争優位性の確立
- Webマーケティング全体のROIの向上
- 売上や利益の増加
- 潜在顧客層の開拓
- PR力・インフルエンス力の増加による認知の向上
このようにさまざまなメリットがあります。そのため、限られた予算内でマーケティングを行うことの多い中小企業にとっては、Webブランディングを行うことにより、より効果的に事業成長へと導いてくれる効果があるのです。
2. Webブランディング実施時に押さえるべきポイント
続いて「Webブランディングを行いたいと思っても、進め方がわからない」という質問に対してお答えします。最初に、中小企業の方々にお伝えしたいのは「シンプルに考える」ということです。以下の点を参考に、自社のことを頭に置き、シンプルに考えてみてください。
1)ブランディングの目的を確認する
企業全体をブランディングしていくケースと、製品やサービスにフォーカスしてブランディングしていくケースがあります。いずれの場合でも、まず自社としてブランディングを通して伝えたいことは何かを考えておくと良いでしょう。
例えば、企業ブランディングであれば、ビジョンやミッションやパーパスといった経営が掲げている部分が重要になります。もしない場合には、この部分をまず考えるところから始めましょう。製品やサービスのブランディングであれば、その製品やサービスの開発思想や、お客様に提供したいベネフィットなどを考えておくと良いでしょう。
2)一貫性を考える
ブランドイメージの一貫性は、Webブランディングにおいて最も重要な要素の一つです。言い換えれば、メッセージやデザインに統一感があり、ブレないようにすることです。
具体的には、Webサイト、SNS、広告など、すべてのチャネルで一貫性のあるメッセージ、ビジュアル、トーンにすることが重要です。
- ロゴ、カラー、フォントなどのデザイン要素を統一する。
利用用途によって利用法を規定するブランドマニュアルを作っておくと、関係者の認識がとりやすくなり、よりわかりやすくなります。 - 一貫したトーンアンドマナーのコピーライティングを行う。
「です・ます」や「である」調が混在しないようにする。またトーンアンドマナーの決め方は、ブランドが目指したいイメージを考慮すると良いでしょう。 - 全ての従業員がブランドの方針を理解する。
従業員がブランドを理解することは重要です。近年、Webを含め、ブランディングを形作る要素として「人」の要素が強くなっています。コールセンターの対応、SNSでの発信など、社外の人と接する際、どこで、何をみても、誰と話をしても、受ける人たちのイメージに一貫性があるようにすることが望ましい状況です。
例えば、誠実をメッセージとして発信していたのに、社員と接するコールセンターやSNSでは全く印象が違ってしまうと、SNSで発信され炎上しブランド価値を大きく毀損するということもありうる話です。そうならないためにも、全従業員に対してブランドについて理解してもらうための説明会の実施やハンドブックの制作なども有効です。
3)届けたい相手をイメージする
この項目は、特に商品やサービスのWebブランディングを行う際に重要な項目です。
効果的なWebブランディングのためには、顧客を理解することが重要です。
- ターゲット顧客は誰なのかを決める
- ペルソナ(ターゲット顧客の人物イメージ)を作成する
顧客の価値観が多様化する中では、自分たちがターゲットとする顧客を決める必要があります。特に中小企業のマーケティングでは、すべての人たちにアプローチするのではなく、市場や顧客を決めてアプローチする必要があります。Webブランディングにおいても、自分たちのターゲットとする顧客を決めることで、より効果的なものになります。
なお、ターゲットとする顧客を決め、ペルソナを作るということは、Webブランディングだけでなく、製品・サービスに関するマーケティングにおいて、最初に決めるべき点でもあります。
4)ブランディングを形にして発信していく
中小企業にとって情報発信は重要なマーケティング活動です。発信するコンテンツの質を高めるとともに、できるだけ発信頻度も多くすることはWebマーケティングで有効になります。
具体的には以下のようなものがあります。
- ブランドの考え方を発信するブログ記事、ブランドムービーの制作
- 経営者や従業員のインタビュー動画の制作
(中小企業にとって「人」はブランディングの大きな資産となります) - 製品やサービスの技術力の高さを示す動画
- SNSにおいて、ブランドのトーンと合わせる形の情報発信
(例えば、親しみやすいブランドイメージであれば、親しみやすいトーンでSNSでのコンテンツを発信していき、先進的で専門的なブランドイメージであれば、専門家として信頼できるトーンでSNSでのコンテンツを発信していく形)
質を高め、発信頻度を高くすることにより、顧客との長期的な関係構築にもブランディングは貢献していきます。
5)UX(ユーザーエクスペリエンス)にも気を使う
Webサイトやアプリの使いやすさも、ブランドイメージに大きな影響を与えます。どんなに良いメッセージを発信しても、操作性が悪く、ユーザーにストレスを与えてしまうような状況があると、ブランドイメージにもマイナス効果をもたらします。
UXを良くするための具体的な内容を以下に記します。
- 直感的なナビゲーション設計にする
- ページ読み込みをなるべく高速にする
- モバイル対応(レスポンシブデザイン)をしっかりする(企業・製品・サービスによってはPCではなくモバイル中心で閲覧されているケースも多数あります)
- アクセシビリティへ配慮する
優れたユーザー体験は、ブランドへの好意度を高めるだけでなく、顧客満足度を高め、サイト滞在率も高めてくれます。またサイトへのリピート訪問率やコンバージョン率にも影響を及ぼすなど、ブランディング以外のマーケティング活動にもプラス効果をもたらします。
6)双方向コミュニケーション
かつてブランディングは、TVCMや新聞全面広告やポスターなどを使い、企業の主張を発信する一方通行的なものでした。しかし、インターネットとりわけSNSの登場・普及により、ブランディングは双方向コミュニケーションで行うものとなりました。2)でも触れましたが、従業員一人一人の振る舞いやお客様相談窓口での対応、デジタルではSNSやブログのコメント機能を活用した顧客との対話がブランド価値を大きく左右するものとなっています。
Webブランディングにおいて、双方向コミュニケーションを強化するための具体的な方法を以下に記します。
- 顧客からの質問や意見に迅速かつ丁寧に対応する
- 顧客からのフィードバックを真摯に受け止め、改善に活かす
- ユーザー生成コンテンツ(UGC)を活用し、顧客参加型のキャンペーンを実施する
- クラウドファンディングなど社外の人に応援してもらえる販売方法をとりいれる
- インフルエンサーにアンバサダープログラムを用意し、より積極的に発信してもらう
- ファンミーティングなど顧客との直接対話の場所をWeb上でも開催する
双方向のコミュニケーションは、顧客との信頼関係を深め、ブランドロイヤリティを高める効果があります。手間と時間はかかりますが、一人一人に丁寧に対応していくと、彼らが積極的にSNSで発信してくれ、ブランドを後押ししてくれるようになります。
7)データ分析と継続的な改善
ビジネスにおいて目標や状況把握のために数字を使うことはとても重要であり、Webブランディングにおいても同様です。Webブランディングの効果を最大化するには、データに基づいた意思決定と継続的な改善が重要です。
- Google AnalyticsなどのツールでWebサイトのトラフィックやユーザー行動を分析する
- 分析結果をもとにUXやコンテンツの改善を行う
- 顧客アンケートや市場調査を定期的に行い、認知度・ブランドイメージの状況を確認する
データ分析により、ブランドの状況を客観的に把握し、改善するための効果的な施策を実施することで、Webブランディングの効果を最大化できます。継続していくことが重要です。
3. Webブランディングの基本的な手順
「2. Webブランディング実施時に押さえるべきポイント」を踏まえ、Webブランディングを実施するための基本的な流れをご説明します。
1)ブランドアイデンティティの確立
- ブランドの核となる価値観、ミッション、ビジョンを明確にする
- ターゲット顧客を定義し、ペルソナを作成する(特に製品・サービスの場合)
- ブランドの個性や特徴を言語化し、ブランドストーリーを作る
- 上記を踏まえ、ブランドのキーメッセージ(キャッチコピー)を決定する
2)ビジュアルアイデンティティの開発
- ロゴ、カラーパレット、フォント、イメージスタイルなどを決定する
- ブランドガイドラインを作成し、一貫したデザインの指針とする
3)Webサイトの構築・最適化
- ブランドアイデンティティを反映したWebサイトをデザイン・開発する
- ユーザー体験(UX)を重視し、使いやすさを追求する
4)コンテンツ戦略の立案と発信
- ブログ、動画、SNSなど、ブランドを伝えるプラットフォームとコンテンツを検討する
- 定期的にコンテンツを公開するための編集カレンダーを作成する
- コンテンツを制作・発信する
- オンラインでプレスリリースの発行を検討する
5)SNSによるプレゼンスの確立
- ターゲット顧客が活発に利用しているSNSプラットフォームを選択する
- 各プラットフォームの特性に合わせたコンテンツ戦略を立てる
- 定期的な投稿とコミュニティ運営を行う
6)Web広告やメールの活用
- Google広告やSNS広告を活用し、ブランドの認知度を高める
- リターゲティング広告で、Webサイト訪問者へのアプローチを強化する
- 広告のパフォーマンスを定期的に分析し、改善していく
- メールマガジンやニュースレターを通じて、顧客との関係性を深める
7)モニタリングとレピュテーション管理
- SNSを中心としたインターネット上でのブランドに関するコメントを定期的にチェックする
- 可能であればソーシャルリスニングツールを使用し、ネガティブな評価や批判に対して適切に対応する(また必要に応じて、関連する社内部署と連携し、原因部分を改善させていく)
- SNSでの対応方法(返信・いいねなどのリアクション)については、企業としてルールを決めておく。なんとなくアクションすることは避ける。
8)パフォーマンス測定と改善
- KPI(重要業績評価指標)を設定し、定期的に測定する
- アクセス解析ツールを使用し、ユーザー行動を分析する
- データに基づいて施策を見直し、継続的に改善を行う
ブランディングは長期的な取り組みであり、即効性を求めすぎないことが重要です。したがって、ブランディングの核となるメッセージやデザインやトーンは頻繁に変更するべきではありません。時間をかけて顧客との信頼関係を構築し、ブランド価値を高めていくことを心がけて行うと良いでしょう。
ただしWebブランディングも通常のマーケティング業務と同じく、常に状況を把握し改善させていくことは重要です。WebブランディングはコンテンツやSNS発信など、常に動いている部分があり、インタラクティブな部分があります。状況を見て、必要に応じて調整・対応を加えていくことで、さらに効果的なWebブランディングを実現できます。
中小企業だからこそWebブランディングは取り組む価値があります。より効果的、より効率的な経営・マーケティングにも繋がる有効な活動です。ぜひ、取り組みをはじめてみてはいかがでしょうか。