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デジタルマーケティングを仕組み化するための体制作り

公開日:2024/12/06

溝呂木聰(みぞろき・さとし)

デジタルマーケティングの導入に取り組んだものの、うまく機能しないケースが多くあります。例えば、Webサイトを立ち上げたものの、目的が曖昧で成果が見えず迷走してしまったり、そのときにヒットしているSNSに飛びつき、本来の目的を見失ったりと、戦略が中途半端に終わってしまうのです。
こうした問題の背景には、デジタルマーケティングへの対応がただ単発的で、組織全体での取り組みになっていないことが大きな要因として挙げられます。デジタル施策は、戦略に基づき、全社で推進する体制を整えなければ、いずれ形骸化してしまいがちです。
そこで本稿では、デジタルマーケティングを組織の重要な機能として確実に根付かせるためのポイントを、実例を交えてご紹介します。

経営戦略との一体化がカギ

デジタルマーケティングを本当の意味で成功させるためには、経営層と現場が一丸となり、企業全体の経営戦略と密接に連動したデジタル戦略にしていくことが不可欠です。
そのためにまず経営層が、デジタルマーケティングに向けた明確な方針を示すことが重要です。例えば新型コロナウイルス禍で対面販売が難しくなった中小企業において、すばやく「Webで販路を拡げる」と経営陣が意思決定を下し、具体的な施策を打ち出したことで、全社での取り組みに発展することができたなどの事例があります。

その上で、デジタル戦略を経営戦略と整合させることが肝心です。単にWebサイトやSNSを立ち上げるのではなく、新規顧客獲得やブランド認知拡大、顧客ロイヤルティ向上など、企業が目指すゴールに沿ってデジタル施策の目的を明確化し、全社で共有する必要があります。企業にとって意義のあるゴールを明確にすることで、「それならば」と社内理解が得やすく、マーケティング活動がブレずに進められます。

さらに、デジタルマーケティングを持続可能な取り組みとするため、社内リソースを適切に割り当てることも大切です。専門家を招いたり一部の業務を外部に委託したりして、担当者が日々の業務に追われて戦略実行の時間が取れなくなる事態を避けたいところです。

このように、経営層の強力なリーダーシップとデジタル化への本気度が前提となり、その上で社内の理解と協力を得ながら、経営戦略と一体化したデジタル戦略を推進することが、デジタルマーケティングの真の仕組み化につながるのです。

KPIの設定とデータ分析によるPDCAが不可欠

デジタルマーケティングにおいて、KPI(重要業績評価指標)の設定とそのデータ分析によるPDCA(計画、実行、検証、改善)サイクルの確立は、成功への必須条件と言えます。

まずKPIとは、Webサイトの訪問者数や顧客のコンバージョン率(成約率)、SNSでのエンゲージメント率(反応などの率)など、デジタルマーケティング施策の達成度を数値化した指標のことです。これらを経営戦略に基づいて設定することで、マーケティング活動が適切に進捗しているのかを客観的に評価できるようになります。
実際、ある小売業では、ECサイトの商品ジャンルごとにWeb広告の効果を分析し、コンバージョン率の高いジャンルに重点的に出稿を行なったところ、結果として販売金額が2割以上増加したというケースがあります。このように、KPIを効果的に設定することにより施策を最適化することが重要となります。

しかしKPIを設定するだけでは不十分で、次にデータ分析によるPDCAサイクルを確立する必要があります。つまり、マーケティングデータを継続的に収集・分析し、その結果に基づいて施策を改善していくという一連のプロセスを回すことが肝心なのです。
例えば、SNSのエンゲージメント率向上を目標に掲げ、毎月KPIを設定してデータ分析を行なった企業では、半年でエンゲージメント率を3倍に高めることができました。また、Webサイトリニューアル後の効果検証をPDCAサイクルで継続的に実施した結果、1、2万PVの状況から1年で訪問者数を100万PVまで増やすことに成功した事例もあります。

こうした改善活動のためには、SMART(Specific:具体的、Measurable:測定可能、Achievable:達成可能、Relevant:関連性がある、Time-bound:期限がある)なKPIを設定し、定期的に振り返りを行うことが重要です。デジタル領域では数値管理が比較的容易なため、明確なKPIを設定し、データに基づいてPDCAサイクルを回すことが、デジタルマーケティングの本質的な強みを活かす鍵となります。KPIなしでは施策の成否が分からず、PDCAサイクルを回さなければ改善できません。
成果が見えにくい場合でも、細かな変化を数値で見たり、社内で共有したりすることで担当者のモチベーションを高められますし、失敗から学ぶことで次の施策に反映させ、より効率的で効果的なマーケティングが実現できます。

これらの取り組みが、デジタルマーケティング活動を効率的かつ効果的に進める上で、極めて重要な要素となります。

PDCAサイクル

教育体制の整備と社内文化の醸成で継続を

デジタルマーケティングにおいては短期的な施策にとどまらず、長期的視点で持続可能な体制を整えることが重要です。そのためには、マーケティング活動の成果を社内で可視化し、全社的な理解を得ることが不可欠です。デジタルの特性を活かして集めたデータから具体的な成功例や失敗例を共有することで、社内での共通認識化とデジタル化が促進されます。

また、デジタルマーケティングに関する教育と育成の環境を整え、継続的な学びが社内文化として根付くようにすることが大切です。たとえば、社員全体に基礎知識を提供するために定期的な研修を行い、経営と現場の担当者が同じ方向を向くようにしましょう。また、最新の情報を入手できるよう、外部の研修や勉強会への参加も後押しすると効果的です。
あるメーカーでは、毎月デジタルマーケティングに関する社内勉強会を開き、最新動向の共有や相互研鑽の場を提供しています。さらに四半期ごとにデジタル施策の成果をレポートにまとめ、社内で共有しています。このように、継続的な学びを支援する環境を整え、成功事例を共有することで組織全体のデジタル理解が深まり、日常的にデジタルツールや分析ツールの活用が促進されました。さらに施策アイデアが以前よりも出るようになるなど意識の変化とマーケティングの重要性に対する機運も高まりました。

他にも、基礎的な教育を提供するだけでなく、最新のマーケティング手法を社内で素早く導入するためのサポートも欠かせません。たとえば、新しいマーケティングツールの利用方法やトレンドを迅速に共有するために、専門家を招いて実践的なスキルを身に付けるセミナーを開催したり、外部の研究会や研修への参加に補助を出すなどをしたら、強化・促進していけるのではないでしょうか。
また、経営層が積極的にこうした取り組みをサポートすることで、組織全体でデジタルマーケティングへの取り組みが容易に実現できます。経営戦略と連携しながらマーケティング活動を展開し、データをもとに施策の成功を可視化して共有することは、全社的な文化の醸成に有意義と言えます。

このように、教育体制の整備と組織全体での文化醸成によって、デジタルマーケティングの知識とスキルが社内に浸透し、組織全体でのマーケティング活動の長期的な成功につながります。

まとめ

ただし、こうした体制づくりには経営層による強力なリーダーシップと、デジタルマーケティングへの本気度が必要不可欠です。短期的な売上アップだけを狙うのではなく、長期的な視野に立ち、組織の根幹に据えることで、デジタルマーケティングが会社の血となり肉となると言えます。
一過性のブームに踊らされるのではなく、デジタル化への確固たる意志を持ち、組織をあげての取り組みを進めることが、デジタルマーケティングの真の仕組み化につながるのです。

コラムニストプロフィール

溝呂木 聰(みぞろき・さとし)

中小企業診断士、経営革新等支援機関。
早稲田大学卒業後、通信教育会社、飲食ポータルサイト、不動産メディアにて宣伝・マーケティングや経営に従事し、2021年独立。東京都・神奈川県の公的機関などを通じて、中小企業支援を行っている。
「Webマーケティングと経営戦略は良い相性」と考え、それらを組み合わせた伴走を心がけている。
https://compuro.jp/