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マーケティング・オートメーション (MA)とは?概要と活用事例

公開日:2023/05/26

藤原哲史(ふじわら・さとし)

最近、BtoB中小企業からマーケティングオートメーション(MA)ツールの導入について相談を受けたり、実際に導入の支援や運用の支援を行ったりする機会が増えてきました。そこで、MAツールが自社の営業活動にも役立つかを知りたい方向けに、MAツールの概要とBtoB中小企業での活用事例について紹介していきます。

MAツールとは?

当連載コラムの「オンライン販路開拓の基本的な考え方」(https://digiport.tokyo/columns/column001/)でもお伝えした通り、購買プロセスにおける検討期間が長いBtoB製品・サービスのデジタルマーケティングを推進するにあたっては、リードジェネレーション(自社の製品・サービスに興味を持つ見込み客の情報を獲得すること)だけでなく、リードナーチャリング(獲得した見込み客の購買意欲を高め、将来的な商談化につなげていくこと)という2つの手順が肝心になります。MAツールとは、この「リードナーチャリング」を効率化し、さらにはホットリード(購買意欲の高い見込み客)を見極める活動をサポートするソフトウェアのことです。これまで営業やマーケティング担当が手作業で行ってきた、顧客の分類・抽出等のプロセスが効率化されることにより、営業活動の生産性向上が期待されます。

*「リード」とは見込み客のことで、具体的には「自社の製品・サービスに多少なりとも興味を示している」「何らかの接点があり、アプローチすることができる」見込み客のことを指します。そのため、自社のことを全く知らない顧客層や、自社の製品・サービスに興味がない顧客層はリードとは呼びません。

MAツールでできること

各販売会社から、様々なMAツールが提供されており、ツールごとに異なる機能もありますが、基本的な機能を3つにまとめて紹介します。

①リード管理機能

Webサイト等からの問い合わせに対応するフォームを設定したり、問い合わせのあった見込み客を顧客リストに自動的に登録したり、自社で保有する名刺データを顧客リストに登録したりして、一元管理することが可能です。さらに、各リードに「問い合わせのみ」「名刺交換のみ」「過去に資料請求」「商談の有無」等の属性を付与して管理することで、各セグメントに応じた対応が可能になります。

②コミュニケーション機能

顧客セグメントに合わせたメールを適切なタイミングで送るセグメントメール(ターゲティングメール)を配信したり、「資料ダウンロード」や「問い合わせ」といった顧客のアクションに応じたメールを、配信タイミングや回数を設定して段階的に送るステップメールを配信したり、定期的にメールマガジンを配信したりといったメールマーケティングを実行できます。メールを戦略的に配信することで見込み客をWebサイトに誘導し、検討度合・購買意欲を高めていくというリードナーチャリングの重要な役割を果たします。

③分析機能

顧客リストに登録されており、かつMAツールで配信したメールを経由して一度でもWebサイトへ流入したことがある顧客の場合、その個人名や企業情報が判明し、サイト内での行動を把握することが可能です。具体的には、誰(個人名、企業名、業種、所在地等)が、いつ訪問(日時、回数、滞在時間)し、どの情報(閲覧ページ、ページ遷移)に興味を持ったかを分析することができます。さらに、顧客と自社との接点(問い合わせ、名刺交換、資料請求、商談有無)などと合わせて分析・管理することで、見込み客へのアプローチや既存顧客への提案を戦略的に行うことが可能となります。

MAツールが解決できる課題

まずは、前項で説明した①リード管理機能、②コミュニケーション機能を活用することで、「一度接点を持った見込み客を放置することなく、中期的に案件獲得を目指すこと」が可能になります。また、「顧客の検討度合いが低い段階から接触を始め、継続してコミュニケーションを図ることで、顧客が本格的な検討を開始したタイミングで、自社が比較対象に入っていること」が可能になります。
さらに、②コミュニケーション機能、③分析機能を活用することで「失注案件に適切なタイミングでアプローチすること」や「検討期間が長い案件に、適切なタイミングでアプローチすること」が可能になります。また、「問い合わせ等のアクションは起こしていないが、ホットな状態にある見込み客にアプローチすること」が可能となり、確度の高い顧客を抽出することで「商談化の効率を高めること」ができます。

BtoB中小企業のMAツールの活用事例

製造業A社の事例

【現状と課題】
Webサイトの月間訪問者数(ユニークユーザー数)は約3,000人であり、ページ閲覧数等の数値も良好。
アクセス解析ツールでは判明しない、Webサイト訪問者の行動を分析して営業活動に活用したい。
これまでの展示会出展で収集してきた約5,000件の顧客リストを有効活用したい。

【MAツールの活用】
①リード管理機能の活用:すでにデータ化していた顧客リストを4,000件に絞り込み、MAツールにインポートして、顧客属性を付与。
②コミュニケーション機能の活用:月1回の頻度で定期的なメール配信を実施。
A社がMAツールを導入してから約6カ月が経った段階で、配信到達数は約3,000件程度に落ち着き、リストを整理。メール配信1回(約3,000件)のうち、サイト流入者が約3%(90件)程度あり、顧客情報を見ると既存の顧客でしばらくやり取りのなかった方もいて、MAツールを活用したメール配信が休眠顧客の掘り起こしや接点の保持に役立っていると実感している。
③分析機能の活用:流入者(約90件)のうち、毎回10件程度はサイト内の複数ページ閲覧している。閲覧ページの内容から顧客の興味を把握したうえで、この10件程度の見込み客に対して、営業が電話でアプローチしている。

【効果】
毎月、営業が電話でアプローチする約10件のうち、商談に至るのが1件程度ある。またメール配信に連動した顧客側からのアクション(問い合わせ、デモ依頼等)が1件程度ある。

製造業B社の事例

【現状と課題】
Webサイトの月間訪問者数(ユニークユーザー数)は約1,000人であり、ページ閲覧数等の数値も良好。
Webサイト経由の有効な問い合わせ件数は、月に10件ほどある。
有効な問い合わせにつながる、Webサイト流入者数を増やしたい。
これまでの展示会出展で収集してきた約3,000件の顧客リストを有効活用したい。

【MAツールの活用】
①リード管理機能の活用:MAツール導入を機に、まずは1,100件の名刺情報をデータ化。MAツールにインポートし、顧客属性を付与。今後、継続的にリストを増やしていく。
②コミュニケーション機能の活用:月2回の頻度で定期的なメール配信を実施(配信到達数は、約1,000件)。

*メール配信に合わせて、月2回Webサイトのコンテンツを拡充して流入を促進。
B社がMAツール導入してから約5カ月が経つ。メール配信1回(約1,000件)のうち、サイト流入者が約6%(60件)程度ある。

③分析機能の活用:流入者(約60件)のうち、毎回、半数程度がサイト内の複数ページ閲覧している。メール配信に合わせてWebサイトのコンテンツを拡充していることが奏功していると実感している。またメール配信とは連動しない複数回の流入や、20ページ以上の閲覧、長時間滞在する顧客も判明しており、現在、来訪者リストを分析し、営業アプローチの計画を立てている。

【効果】
MAツールを活用する前と比べて、Webサイトの月間訪問者数が月により30〜50%上昇し、それに合わせて問い合わせ件数も増加しており、顧客側からのアクション増加だけでも効果を実感している。
顧客の行動を分析することで、「ホットな状態にある見込み客」を想定できるようになってきたため、今後、確度の高い顧客を抽出してアプローチしていきたい。

MAツール活用のポイント

リード数を確保する

これまで見てきたように、実務的にはMAツール運用の中心はメール配信になります。メール配信の開封率は20%程度、さらにクリック率(Webサイトへの流入率)は、一般的なメール配信で1~3%程度、イベントのお礼メールなどで5~10%程度と言われています。保有するリードが100件しかない場合、メール配信からWebサイトに流入してくれるのは数名程度という計算になり、MAツールの導入の意義を見いだせなくなってしまいます。ベンダー(ツール提供会社)によると、MAツールの活用にあたってはリード1,000 件の確保が目安になるようです。

コンテンツ制作のリソースを確保する

前述したように、顧客個人のメール配信への反応やWebサイトでの行動を分析することで、見込み客へのアプローチや既存顧客への提案を戦略的に行うことが可能になるため、直接顧客と接点を持つコンテンツ(メール内容およびWebサイトの製品・サービス案内、事例紹介、動画、ダウンロード用資料等)の質が低ければ、効果的に成果をあげることはできません。そのため、コンテンツ制作にしっかりとリソースを割けるかどうかも、MAツール活用の判断材料となります。

日々の営業活動、展示会出展やWebサイトへの問い合わせ等で獲得した顧客リストを取りまとめると有効なリードが1,000 件以上あり、内製・外注に関わらずコンテンツ制作のリソースが整っているようでしたら、MAツール活用の下地はできていると思います。その場合、費用対効果や通常の営業活動との親和性を考慮のうえ、MAツールの導入を検討いただくと良いでしょう。

コラムニストプロフィール

藤原哲史(ふじわら・さとし)

中小企業診断士、ITコーディネータ。出版社、広告代理店・制作会社にて企画・編集・制作業務に携わった後、2019年に株式会社クレビスを設立。現在、企業のマーケティングコミュニケーション活動(Webマーケティング、ブランディング、広告宣伝、販売促進、広報/PR)の戦略立案・実行・改善の支援に従事している。