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SNSに対して過度な期待をしすぎず現実的に活用する~中小企業のSNS活用のポイント

公開日:2025/06/20

坂本義和

夢見がちなSNS活用とその現実

様々な企業の支援の中で必ずといってもいいほど話題に上がるのがSNSの活用。
多くの企業がSNSに大きな期待を寄せています。
「フォロワーが増えれば売上が伸びる」「バズれば認知度が一気に上がる」といった期待を抱き、SNS運用に力を入れる企業は少なくありません。
しかし、実際にはSNSでの成功は私の知る限りでは一握りの企業に限られており、多くの企業は思うような成果を得られずにいます。ここでいう「成功」とは企業の業績に一定程度の好意的な影響を与えることと定義します。華々しい成功事例を見ると、取り組まねばという気持ちになるのもわかります。ですが、ビジネスの形態や、ターゲットとなるお客様によってはそもそも「やらなくてもいい」どころか「やらないほうがいい」こともあります。

本記事では、中小企業が現実的にSNSを活用するためにはどうすればいいのかについてお伝えできればと思います。

なぜ企業のSNS活用は難しいのか

SNS活用が難しい理由はいくつかあります。

根本的に、SNSユーザーと企業が目指すことがズレている場合が多いことが挙げられます。多くの企業がSNSを「売り込みの場」にしたいと考えています。自社商品やサービスを知ってもらい、購入してほしいと考えていると思います。
ですが、SNSユーザーがSNSを利用するのは何かを買うためではありません。価値ある情報や体験を求めています。ここのようなSNSユーザーの求めていることと、企業側が期待することにはズレがあることを理解していないと、企業がSNSを活用することは難しいといわざるを得ません。
実際、この記事を読んでいるあなたがSNSを利用しているときになにかを買いたくて利用しているでしょうか?多くの場合そうではないと思います。
飲食店、美容など一部業種では、ユーザーが求める情報と、企業が伝えたい情報・知ってほしい情報が一致する場合もありますが、多くの業種ではユーザーが求める情報と企業が伝えたい情報にはズレがあります。

また、SNSのアルゴリズムは常に変化しており、昨日効果的だった施策が今日は通用しないことがあります。SNSでの成功事例の多くは「その会社だったから」成功した場合も多く、他の企業が同じやり方をしたからといって同じ結果を出せるとは限りません。

さらには、単にアカウントを持ち、投稿するだけでは効果は限定的です。継続的に意図をもった運用が重要ですが、企業が発信できるネタには限界が来ることが少なくありません。SNSを始めたものの、結局企業Webサイトのお知らせ欄(休暇のお知らせなど)と変わらなくなってしまうか、社内の人にはわかるけどSNSユーザーにとってはあまり興味のない情報を伝える場(社内のイベントの様子を伝えるなど)になってしまうことが少なくありません。

業種業態にもよりますが、SNSが向いている企業とそうでない企業があるということは事実だろうと考えています。

BtoB企業におけるさらなる難しさ

SNSのユーザーは一般消費者の利用がメインになります。そのため、消費者向け(BtoC)企業に比べ、企業間取引(BtoB)を主とする企業のSNS活用はより一層難しいと言えます。理由をもう少し詳しく述べます。

  • 意思決定プロセスが複雑でありSNSの情報をベースに意思決定されるなど直接的な貢献には繋がりにくい

企業において情報収集している際にSNSの情報を参考にするケースはあまり多くないのではないでしょうか。多くの場合Webサイトの情報を参考にするはずです。

  • 専門性の高い内容をうまく伝えることに向いていない

SNSのいいところは、情報を端的に伝えられるところ、即時性の高い情報を伝えられるところともいえます。スペースも限られており、また情報は毎日どんどん「流れて」いってしまいます。
そのため、企業間取引で求められる専門性の高い情報や、体系的な情報を伝える場としては向いていないと考えられます。

どのように活用すればいいのか?SNS別に考えてみる

では中小企業はどのようにSNSを活用すればいいでしょうか?
次の2点を判断軸としてみてください。

①各SNSに自社のターゲットとなる人はいるか?いるとしたならどのようなシーンでSNSを利用しているときに情報を届けるべきか?
②利用するSNSは、自社のよさを伝える媒体として適しているか?

ウォーターサーバーの販売を展開する会社の事例をお伝えします。

① SNSのうち、X(旧Twitter)やFacebookを利用しているときに水のことを想起することは少ないかもしれない。一方、Instagramの場合は、美容の情報を見ているときに水のことを想起する可能性があるかもしれない。
② こちらの会社が打ち出したいウォーターサーバーの特長として、キッチンやリビングにおいてもおしゃれに見えるような、機体のフォルムデザインの美しさがある。実際にリビングに設置されたウォーターサーバーを撮影した画像は見栄えがいいので、Instagramなど画像をメインに投稿するSNSには向いている。また飲んでいるシーンを動画で伝えれば魅力が伝わるかもしれない。お客様の声をベースにコンテンツを作ることは可能でないか?

このような仮説をベースにInstagramの運用を始めました。フォロワーはそこまで増えませんが、質問をDMでいただくなど一定の成果は出ています。

先にも伝えた通り、SNSは即時性の高い情報が求められ、かつ様々な情報がどんどん「流れて」いってしまいます。
そのような中で興味関心を持ってもらえるようなコンテンツを発信できないようであれば、それは商品や企業の問題ではなく、SNSを利用するのが向いていないビジネスだということです。
ですからSNSを本当に活用すべきかどうかは、よく考えてみる必要があります。

テレビのザッピング(テレビの視聴中にリモコンでチャンネルを頻繁に切り替える行為)という行為があります。ザッピングをする視聴者心理としては、自分が興味のある情報がないかを、無目的に探しているような状況といえます。SNSをみているユーザーの心理も似たようなものです。さらに、SNSは無限ともいえるほどの情報量があり、いってみればチャンネル数が限られたテレビよりも、情報をより流し見つづけることが可能です。テレビが数秒見られたあとザッピングをされるとしたら、SNSでは自社のコンテンツが見られるのは1秒にも満たないと考えてよいでしょう。そのような一瞬で興味を持ってもらえるようなコンテンツを発信できないのであれば活用は難しいと考えています。

それを前提に、SNS別に活用法のヒントをお伝えします。

X(旧Twitter)

とにかく文字での情報がメインなので、簡単に埋もれてしまいます。そのため、即時性に振り切るか、コミュニケーションの手段としての活用が効果的と考えています。

  • 業界ニュースへのリアルタイムコメント
    →業界内にお客様がいる場合
  • 顧客からの質問に迅速に応答する窓口としての活用
    →消費者向けのビジネスの場合
  • 業界イベントでのライブツイート
    →即時性の高い情報を発信するアカウントとして認知を上げる

YouTube

Webサイトは基本的には文章と画像で構成されています。そのため、文章だけでは説明できない複雑な製品やサービスの説明には「動画」が最適です。

  • 利用方法の説明動画
    →実際に動いているところを見ていただくのがはやい場合
  • 導入事例インタビュー
    →文章で書かれたお客様の声よりもよりリアルに感じられます
  • 商品説明セミナーの置き場所として
    →セミナーを何回もやるのは困難なので
  • よくある質問への回答を動画化
    →質問に回答する形式をとったほうが理解が深まる場合

Instagram

画像と動画がメインのSNSなので、視覚的な情報伝達に強みを持つSNSです。InstagramはBtoB企業でも、工夫をすることで効果的に活用できる可能性があります。

  • リール動画(短尺動画。短い動画なので、見ていただける可能性が高い)で製品の特長や使用方法をコンパクトに紹介
  • 製品の使用現場を画像メインで伝え、具体的な活用イメージを伝える
  • 複雑なデータや概念を図解することで視覚的に説明
  • 企業文化や働く環境を視覚的に紹介し、採用に活用

本当にSNS運用は必要なのか?

繰り返しますが、私は場合によってはSNS運用は必要でないという立場です。
書籍やネットで書かれている、中小企業のSNSの活用の事例や効果についてみると、自社アピールができること、ブランディングができること、顧客のロイヤリティ向上ができること、などがあげられています。

自社アピールができるかについては、そもそも新規ユーザーに見てもらうのが難しいSNSもあります(YouTubeなど)。また、ほとんどのSNSでは、フォロワーがいないとアピールができない、またはフォローしてくれている段階でアピールができている(魅力がないとフォローはされないはず)なので、SNSを使ってアピールができるというのはどこかズレているように思います。

ブランディングについても、例えば親近感のある投稿でフォロワーが増えたとしてもブランドイメージの向上にはつながるかもしれませんが、フォロワーが商品を買うとは限りません。中小企業においてのブランディングというのが何を目的にしているのかによってなのかもしれませんが、あまり意味のある施策だとは思えません。

顧客のロイヤリティ向上という部分でも、わざわざSNSをフォローさせて情報を発信するよりも、アフターフォローや別のアプローチのほうがロイヤリティは向上するのではないでしょうか。すでに保有している顧客データがあるのに、SNSをわざわざ使ってロイヤリティを向上させるのは時間の投資対効果として見合わない場合もあるのではないかと考えています。

デジタルマーケティングは、様々な手段の総合戦だと考えています。全体の施策の中でSNSを活用すべきかどうかをしっかりと判断し、他にお金や人を割いたほうがいい場合は無理に運用する必要はありません。
多くの企業でSNS運用を挫折してきた場面を見ているので、一度しっかり考えてみることをおすすめします。

中小企業がSNSを現実的に活用するための戦略

以上を前提にしつつ、時間・お金・人が限られている中小企業がSNSを効果的に活用するにはどうすればよいでしょうか。

1.全てのプラットフォームに手を出さない

Instagramで成功している企業を見て、「うちもインスタ始めなきゃ」と考えるのは自然な反応といえます。しかし、先にお伝えしたように、各SNSには特性があり、自社の商品・サービス、そしてターゲット層に合ったSNSを1つ、多くても2つ選び、そこに集中する方が効果的です

2.量より質、頻度より一貫性

SNSというと毎日投稿、という印象がありますが、それよりも、週に1〜2回でも一貫した質の高いコンテンツ、ユーザーが求めているコンテンツを提供する方が長期的な成果につながります。自社の専門性や独自の視点を活かしたコンテンツ作りを心がけましょう。

3.SNSではけして売らない

SNSの本質は社会的なつながりです。売り込むのではなく、有益な情報提供や顧客の課題解決のヒントや業界に対する考察など、ユーザーが求めている情報を提供することで、コンテンツやアカウントに好感をもつような、関係構築につながるコンテンツを意識しましょう。

4.投稿の目的と評価指標を明確にする

「いいね」を増やしたり、表示回数を増やすことが目的ではありません。SNS投稿のその先にある目的を明確にし、それを評価する指標を気にするようにしましょう。
いくつかの目的と評価指標をお伝えします。

  • 見込み客獲得:SNSからの問い合わせ数や資料ダウンロード数
  • 投稿への好感:コメントの内容を分析・引用された回数など
  • Webサイトへの導線:SNS経由の訪問者の滞在時間やページ閲覧数

「バズる」ことを目標にするのではなく、自社にとって意味のある指標(上記の目的にあった指標)を設定し、そこに向けた地道な活動をし、効果検証を続けることが大切です。

5.社内リソースを有効に活用する

SNS運用やコンテンツの作成を外部委託することも考えられますが、できれば自社で運用することをおすすめします。多くの場合は費用対効果に見合わないのと、自社にノウハウがたまらないからです。

  • 専門知識を持つ社員を活用:社内インタビューなどによるコンテンツ制作
  • 部門横断チームでプロジェクト化し、SNSコンテンツのアイデアを出し合う
  • 既存コンテンツを再利用する:展示会での営業資料や顧客訪問時の提案資料をダウンロードさせる


まとめ

SNSもまた魔法の杖ではありません。
ですが、SNSのその先にあるビジネスに関連した目標と適切な戦略があれば、中小企業にとっても有効なマーケティングツールとなり得ます。中小企業のSNS活用は、即効性よりも継続性、広範囲にあれこれやるよりも深さを重視することで、真の成果につながると考えています。
表面的なフォロワー数や「いいね」数ではなく、質の高い見込み客へのアプローチを継続し、自社への興味関心度を増すための関係を構築することを目指しましょう。
華々しい成功事例に惑わされず、自社の強みとビジネスのための目標に合った活用法を見つけていくことが、SNS運用の鍵と言えるでしょう。
繰り返しますが、中小企業がSNSの運用を続けることはとても難しいことです。本当に運用すべきか、続けられるかをしっかりと見極め、よい成果に結びつけていってください。

コラムニストプロフィール

中小企業診断士

坂本 義和(さかもと・よしかず)

大学卒業後、すぐに起業。Web制作・マーケティング支援の会社を経営し、Web業界には20年以上関与。「経営に役に立つ」デジタルマーケティング支援を得意とする。活動の源泉は、よい商品・サービスが届けたい・届くべきお客さまに「知られていない」状態を世の中からなくすこと。