「ホームページを新しく作ってみたけど、問い合わせが増えない」、「SNSを始めたけれど、手間がかかるだけで成果が見えない」──このような声を、中小企業の現場で耳にする機会が増えています。特に、Web集客に力を入れ始めたばかりの方々にとっては、デジタルマーケティングは“即効性のある魔法の道具”として期待されがちです。しかし、現実には「うちには合わなかった」と感じ、途中で取り組みをやめてしまう企業も少なくありません。
ですが、これは企業側に問題があるのではなく、“共通のつまずき”に直面している可能性が高いのです。実際、多くの企業が似たような壁にぶつかっており、その壁を理解した上で、段階的に乗り越える工夫をすれば、効果的な成果へとつながる可能性があります。
この記事では、デジタルマーケティングを進める中で企業がぶつかりやすい5つの「壁」と、それをどう乗り越えるかについて、やさしく解説していきます。デジタルの“限界”を知ることで、むしろその“可能性”を広げる第一歩としていただきたいと思います。
見落とされがちな5つの「壁」
デジタルマーケティングが思うように機能しない背景には、誰もが一度は直面する“見えにくい壁”が存在します。ここでは、その代表的な5つを取り上げます。
1. 効果が出るまでに時間がかかる
デジタル施策は、紙媒体とは違って即座に展開できるためすぐに反応が得られると思われがちですが、そうとは限りません。SEO(検索エンジン対策)やSNS運用、ネット広告、メルマガ配信などは、いずれも一定期間の試行錯誤と蓄積があって初めて成果につながります。しかし、多くの企業が「すぐに問い合わせが増える」と期待して始めてしまい、途中で「効果がない」と判断してしまいます。これは、“時間軸のズレ”が原因といえるでしょう。
2. 手間・労力のコストが軽視されがち
「デジタルなら効率的にできる」というイメージから、手間がかからないと思われがちですが、実際には企画・原稿・画像作成・分析・改善といった作業が発生します。慣れないうちは、1つの投稿やメール作成に多くの時間がかかってしまうこともあります。ここで心が折れてしまう企業も少なくありません。
3. 顧客との関係構築に限界はある
オンラインだけで顧客との信頼関係を築くのは簡単ではありません。Web上では表情や声のトーンなどの“温度感”が伝わりにくいため、対面に比べて距離を感じるお客様もいます。特に、商談や成約に至るプロセスが長いBtoBビジネスにおいては、デジタルはあくまで補助的な接点であり、最終的にはリアルな関係構築が必要になる場面もあります。
4. アルゴリズムや技術革新に左右される
Googleの検索アルゴリズムやSNSの仕様変更など、デジタルの世界は日々変化しています。昨日まで効果的だった方法が、今日から急に通用しなくなることもあるのが現実です。せっかく作った記事や広告が思うように届かなくなる事態も起こり得ます。こうした不確実性への対応力が問われる分野だといえます。
5. オフラインとの連携がなければ完結しない
Web広告やSNSから資料請求や問い合わせを得られたとしても、最終的に商談・契約につなげられなければ意味がありません。また、展示会やDM、営業訪問などのリアル施策との連動ができていないと、せっかくのデジタルの成果が「点」で終わってしまいます。「デジタルだけで完結できる」と思ってしまうこと自体が、大きな落とし穴なのです。
このように、デジタルマーケティングは魔法のように全てを解決してくれるものではありません。しかし、これらの「壁」は決して乗り越えられないものではなく、工夫と体制づくり次第で、むしろ自社の強みに変えていくことができるのです。
アドバイザーに伴走してもらいながら、5つの壁を乗り越える
デジタルマーケティングで成果を出すためには、「壁」を理解し、それを乗り越えるための“仕組み”をつくることが大切です。以下に、5つの壁をどう乗り越えていくか、その実践的なポイントをご紹介します。
1. “継続”を前提とした計画をアドバイザーと立てる
効果がすぐに出にくいからこそ、最初から長期的な視点で取り組むことが成功の鍵です。社内だけで抱え込まず、東京都中小企業振興公社のような公的機関の支援メニューを活用してアドバイザーと一緒に、中長期の目標を定めた上で、段階的な施策を立案しましょう。半年~1年単位の見通しで「どこまで育てるか」を設計できれば、迷いなく継続しやすくなります。
2. “できることから”を仕組みに落とし込む
手間やリソースがネックになる場合は、まずは社内で無理なく回せるところからスタートするのがポイントです。たとえば、月1本のブログ投稿や、展示会出展前後のSNS投稿など、イベントに連動させた投稿設計が効果的です。また、スケジュール管理やコンテンツ作成をルール化することで、属人化を防ぎ、運用を仕組みとして社内に定着させることができます。
3. “リアル”と“デジタル”の役割分担を明確にする
オンラインだけで関係性を構築しきれないと感じる場合は、あえてオフラインの強みを活かす戦略が有効です。たとえば、展示会や営業訪問で得た名刺情報に対して、後日メールマガジンを送る。あるいは、Webサイト経由で得た問い合わせに、迅速な電話対応や訪問を組み合わせる。デジタルは「関係を築く入口」として活用し、リアルな接点で信頼を深めていく設計が理想的です。
4. “変化に強い”体制づくりを心がける
アルゴリズムやトレンドの変化に対応するには、一人の担当者だけに依存しないチーム体制が重要です。例えば、SNSの投稿担当・チェック担当・データ確認担当といったように、役割を分担しつつ、定期的に振り返る場(簡易なミーティングなど)を設けてPDCAを回すことが、柔軟で変化に強い運用につながります。
5. オンラインとオフラインを“つなぐ”顧客体験を設計する
デジタルでリード(見込み客)を獲得しても、その後の接点設計が曖昧だと、せっかくの関心が“取りこぼし”になってしまうこともあります。そこで重要なのが、オンラインとオフラインをシームレスに接続した「一貫した顧客体験」の設計です。
顧客体験(カスタマーエクスペリエンス)とは、お客様が企業と接点をもってから購入、利用、フォローまでの過程で「どのような印象をもって、どのような気持ちになったのか」という一連の体験全体を指します。良い体験は信頼や満足度を高め、リピートにもつながります。
たとえば、Web広告から資料請求につなげた後、対面の商談や電話フォローへ自然につなげる。あるいは展示会で得た名刺情報に対して、後日メール配信やWebコンテンツへの誘導を行うなど、複数のチャネルを組み合わせて“顧客の行動を導く導線”を意識して設計することがポイントです。
また、やり取りの履歴や興味・関心のあるテーマをCRMによって一元管理することで、どのチャネルでもスムーズに顧客情報を引き継ぎ、お客様が迷ったり、何度も同じ説明を求められたりするなどの不便さを解消することができます。こうした“統合的な顧客体験”を目指すことで、関係性を深めやすくなり、最終的な受注や継続的な関係構築へとつなげていくことができます。
まとめ
デジタルマーケティングには、誰もが一度は直面する「壁」があります。しかし、それは失敗ではなく、次のステップへのサインです。
今回ご紹介した5つの壁を理解し、アドバイザーとともに長期的な視点で取り組めば、無理なく成果へとつなげることができます。
オンラインとオフラインをつなぐ顧客体験の設計を意識しながら、自社に合ったマーケティングの形を一緒に育てていきましょう。